2022年遅咲き大ヒットの理由
■大半は一過性で終わるヒット商品。定番化するために必要なのは?
タピオカ茶にしろ、マリトッツオにしろ、ヒット商品たるもの、一時的に爆発的に注目を集めるものの、しばらくすると忘れ去られてしまうのが常。ところが『日経トレンディ2022年ヒット商品』で1位、2位に輝いたのは、いずれもその誕生から約3年も経たものです。
もともとまったく注目されていなかったわけではありませんが、時とともに増殖し続けたファンの口コミを中心にどんどん人気が盛り上がり、トレンド狂騒曲を奏でるまでに至ったのです。
この「ヤクルト1000」と「ちいかわ」、前者は乳酸菌飲料で、後者はTwitterで無料配信されている漫画作品です。誕生から約3年で大ブレイクということ以外に共通項はなさそう……と思いきや、両者ともに「ストーリー」がありました!
「ストーリー」といえば、「メディアが報道したくなるようなストーリーが大事」「人に語り継ぎたくなるようなストーリーがあると長く親しまれる」とPR活動の中で非常に重要な要素だと言われます。そのお手本のようなストーリーが、ヤクルト1000とちいかわにはあるのです。
それぞれ検証していきましょう。
睡眠の質を向上させるYakult1000
■愛飲者の声がストーリーとなって共感が共感を増殖させた「ヤクルト1000」
受賞商品の正式名称は正式には「Yakult1000(宅配用)/Y1000(店頭売用)」ですが、本文では「ヤクルト1000」と表記します。
「ヤクルト1000」は、ヤクルト社の乳酸菌飲料のひとつです。「ストレスを緩和し、睡眠の質向上」に効く乳酸菌シロタ株がヤクルトの飲料シリーズの中で最も多く含まれる商品として、2019年に地域限定で発売されました。
ヤクルト社は約90年前から乳酸菌飲料の販売で「健康で楽しい生活づくり」に貢献する……を企業理念に掲げていますが、その商品ラインナップの中で「ヤクルト1000」は最高峰に位置づけられているのです。
この段階で「差別化できる優位性をもった商品」として話題性が生まれます。
ターゲットも明確です。発売開始当初はまだ成熟しきっていなかった「睡眠の質を向上させる健康飲料」の市場に、「ヤクルト1000」は挑みます。そして、「乳酸菌飲料は子どもや女性が好むもの」というイメージからの脱却です。
ストレスや目覚めの悪さを改善する機能を備えた「ヤクルト1000」は、それらの悩みを払しょくして精力的に活躍する各界のプロフェッショナルをメインターゲットに据えました。
CMには歌手のMISIAさんや音楽プロデューサーの秋元康さん、力士の貴景勝さんに「睡眠が仕事に与える影響」について語ってもらうなど、スペシャリストやビジネスマンが共感するようなアプローチで制作されています。
CMを流したとはいえ栄養飲料のタフマンや飲むヨーグルトシリーズのジョアに比べれば、派手なキャンペーンとは言えません。
広告以上に力を入れたのが、ヤクルトレディと呼ばれる販売員に丁寧な説明をしてもらうことやSNSでインフルエンサーに試飲してもらって体験談を拡散してもらう地道なPR手法でした。
商品に自信があってこその成功への道だったわけですが、そんな口コミメインの施策によって「飲んでみたら劇的に効果があった!」とバズりにバズり、タレントのマツコデラックスさんや超大物ミュージシャンも実際に愛用するようになったことを番組やSNSでコメントしてくれるようになり、話題の輪はどんどん大きくなっていきます。
睡眠に悩む人々の声へ共感する人々、改善された喜びを語り合う人々によって「ヤクルト1000」のストーリーは千変万化し、現在は1日150万本以上の売上を示すまでになりました。売り切れ続出で転売サイトで高額取引されるなど、さらに新しい現象も生みだしています。
ヤクルト社は「ヤクルト1000」増産を念頭に、工場の移転や機能リニューアルを先ごろ発表しました。何年もの時を経て、「睡眠の質向上」の特効薬的地位を確立した「ヤクルト1000」は、場合によってはヤクルト2000、ヤクルト3000として定番化されていくかもしれません。