「親の会話」は子どもの自信に影響大
挑戦するのが投球であれ、側転であれ、数学であれ、幼少期は自信の養成所になりえます。遠くまで球を投げられたとき、高くまで登れたとき、子どもは自分の進歩に気づいて、スキルアップを喜べます。弱点を見つければ、具体的な改善策を打てます。ただ、常に進歩の過程にいるという感覚は、多くの子どもに不安や寄る辺なさを抱かせる可能性があります。
特に、成功を重視する会話ばかり聞かされている子どもは、「キリがない」「どんなにがんばっても届かない」と感じてしまいます。私が担当した子どもたちのなかにも、そのような心境を吐露(とろ)する子どもが多数いました。やがて私は、親の会話が子どもの自信に大きく影響することに思いいたりました。
私たちの日常活動のとらえ方によっても、子どもの自信は変わってきます。ハバフォード大学の心理学者ライアン・F・レイらが2019年に発表した研究によれば、6~11歳の子どもは、「科学者になれる」自信は失っていても、「科学ができる」自信は失っていないと判明しました。その研究の著者らによると、多くの子どもたちが「自分は日常活動としての科学ができる」と信じていたようですが、その子どもたちが将来科学者になる可能性は低そうでした。
この差は、親の話し方に関して重大な示唆(しさ)を与えています。子どもの将来の職業よりも、子どもが日々の生活でできていることに着目すれば、子どもはその活動にもっと積極的になると思われます。そして、スキルが向上するにつれ、安心感と自信が得られます。このことは科学のように、子どもによっては「難しい」「怖い」と感じるような科目ほど当てはまります。
私たちの会話は、子どもの失敗や課題を振り返り、対処するうえでも重要です。かつて私立学校に勤務していたとき、ジョサイアという小学2年生の少年がいました。ジョサイアは、スポーツは得意でしたが、読みが苦手でした。しかも、おとなしい性格だったため、授業で困ることがたびたびあるにもかかわらず、何も言わず、助けを求めることもありませんでした。クラスメートにからかわれることを恐れて、音読も避けていました。
ジョサイアを指導するにあたり、私はジョサイアの父親と面談をしました。「お前はすごくよくやってるよ、と伝えているんですが、本人は納得しないんです」父親が言うには、何ヵ月間も息子を励ましてきたものの、ジョサイアのスキルは向上しませんでした。読みで友達にますます後れを取り、先生から易しい本を与えられるうちに、ジョサイアはいっそう自分のスキルを信じられなくなったそうです。
ジョサイアの読む力を評価してみると、長めの初見の単語を読むことが難しい、スペルミスが多いなど、読み書き障害の兆候が多く見られました。教師とも相談した結果、ジョサイアの読むスキルを向上させるために、これまでとは違った、より集中的な訓練をすることになり、1週間に2回の私の指導が始まりました。
その過程で、ジョサイアのセルフトークについて、何度も会話を交わしました。初対面の日、ジョサイアは沈んだ声で、「ぼくは読むのがめちゃくちゃ下手」だと語りました。「他のみんなはすらすら読めるのに、ぼくは違う」
そこで、読むことに限らず何事も「すらすら」やる必要はないのだと、私たちは話し合いました。ただ、わからない単語が出てきたら発音してみればいい、発音できなければ先生か私に助けを求めればいい、と。
また、自信をつけさせるために、進歩が確認できるような記録表を作ることにしました。読む前に唱える合い言葉も決めました。ジョサイアが選んだのは「とりあえず読んでみよう。難しければ、やめていい」でした。この言葉のおかげで、ジョサイアは成功を「0か100か」で考えるのをやめ、段階的な進歩に目を向けるようになりました。