(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

「別に酒屋を継げと言ってるわけじゃないんだ。ただ、この家と土地は加藤家側の誰かが継ぐべきだと思ってね」

 

四姉妹は皆、いろいろと意見を言い合っていましたが、やがて「拓也は二男だし、同じ市内で働いているのだから、ここの家と土地を継ぐのは悪くないのではないか」という意見に落ち着いたのです。

 

「俺たちがいなくなったあとの話だ。もし、古い家が嫌だっていうのなら、建物は壊して土地だけ相続してもらってもいいんだ」

 

そう言いながら、更地になったこの土地を想像して、少し寂しくなりました。

「みんなの甥っ子」からの提案

後日、四女から拓也が「継いでもいい」と言っていると連絡が来ました。

 

私はすぐに、店の書類一式を任せている行政書士の先生に連絡を取りました。事情を話し、遺言書を作成したいと相談したのです。

 

一ヵ月後。加藤酒店に久しぶりに大勢の人が集まりました。

 

四姉妹だけでなく、四女の夫や将太、それにこの日の主役、拓也も顔を揃えたのです。行政書士の先生を交えて、どういう形の相続にするのかを相談し、遺言書にまとめるためです。先生が、皆にどうして遺言書を作っておく必要があるのかを説明してくれました。

 

そのとき、話を聞き終えた拓也が「ちょっといいかな」と言って皆を見たのです。

 

「それって、俺がこの家と土地、財産だけを継ぐって話だよね。それより俺はここをちゃんと守りたいんだよね。……だから、俺が加藤酒店を継ぐよ」

 

意外な提案に、その場にいたみんなが顔を見合わせました。四姉妹みんなの子どもだった拓也が、四姉妹の故郷である加藤酒店を守りたいと言ってくれたのです。

 

それは、拓也の優しくも頼もしい提案でした。それが誰もがわだかまりをもつことのない一番の解決策だと拓也もわかっていたのだと思います。

 

「もちろん、伯父さんと伯母さんがいいって言ってくれたら、だけど」

 

「もちろん、いいに決まってる」

 

私が必死に言葉を絞り出したとき、和美は堪え切れずに喜びの涙を流したのです。

 

「じゃあ、もっと遊びに来なくちゃね」

 

長女と三女は手を握り合って喜びました。また、加藤酒店が賑やかになる。そこにいる誰もが、これからの加藤酒店の明るい未来を想像したのです。

 

そこから始まった酒盛りは、久々に盛り上がり、夜遅くまで続きました。

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

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扶桑社

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