高齢者は本当に運転免許を返納すべきか
新型コロナはさまざまなリスクのなかの小さな一つと言いましたが、これは決して、過小評価ではありません。
新型コロナに不安を抱いている方は、コロナによる死亡者数を、ほかの死因による死亡者数と見比べたことがあるでしょうか。
インフルエンザで亡くなる方は、関連死を含めると毎年年間約1万人もいます。にもかかわらず、恐れの度合いは新型コロナに比べるときわめてわずかです。
ちなみに、浴室で亡くなられる方は年間約2万人です。数字と不安の強さが、まったく比例していないことがわかるでしょう。
このように数字で比べてみると、今感じている不安が、実際にどれだけ怖がるに値するものなのかがわかってきます。
高齢ドライバーの問題にも、同じことが言えます。
高齢者による交通事故の報道が、しばしば世間を騒がせています。読者のなかにも、「うちの親は運転を続けていて大丈夫だろうか?」と不安になっている方がいるかもしれません。
事故を防ぐため、高齢者の運転免許返納が盛んに呼びかけられていますが、免許返納の結果、高齢者の外出が制限され、要介護となる方が劇的に増えると言われています。となれば、国は介護のための予算を大幅に増やさなくてはなりません。
高齢者が起こす交通死亡事故は、マスコミに取り上げられやすいため、数がとても多いようなイメージを持たれていますが、2021年のデータでは、75歳以上の運転免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は5.7件(警察庁による)。つまり、確率は0.0057%です。もちろん、他の年代の人もゼロではありません。
一方、筑波大学の市川政雄教授らが65歳以上の高齢者を6年間追跡した研究によると、車の運転をやめた場合、要介護認定率は1000人年当たり118.6。つまり、年11.86%。運転を続けた場合は1000人年当たり37.6。つまり、年3.76%だということです。運転をやめると8.1%も増えるのです。
0.0057%と8.1%。両者を検討したうえでなお、免許返納を勧めるでしょうか。それでも免許返納を勧めるならば、それも一つの判断です。しかし、確率を比較しないでただ不安に駆られているだけなら、まずは数字を見るべきです。