再婚して築いた家庭は、周囲の干渉が多く緊張の連続
今回の相談者は、60代の山田さんです。自分の相続について不安があるということで、筆者の元に訪れました。
山田さんは先妻と死別しており、先妻との間に長女がいます。先妻を亡くした直後は、幼い長女を連れて自分の実家に身を寄せていましたが、数年後、出会いがあって再婚。実家そばに自宅を購入しました。後妻との間に長女が生まれました。
「再婚した妻はとても穏やかな性格で、先妻の子と自分の子、分け隔てなく育ててくれました。しかし、いろいろ問題がありまして…」
再婚後、実家から車で10分程度のところに自宅を購入したのですが、そこには山田さんの母親と姉が入りびたるようになり、再婚した妻が精神的に参ってしまったのだといいます。
「母と姉は別宅のつもりなのか、私と妻の家でわがもの顔にふるまいまして。休日は私が追い返していましたが、平日の昼間、仕事で不在にしている時間にたびたび来ていました。姉が面倒を見ていた上の子と、後妻との間に生まれた下の子を差別するような態度を取るため、おとなしい妻と下の子はだんだん不安定になってしまって…」
山田さんの上の娘は、20代で結婚しましたが、下の娘は次第にひきこもるようになり、なんとか大学は卒業したものの、就職でつまずき、いまはうつ病の診断を受けて自宅療養をしている状態です。
上の娘が「お父さんが死んだら自宅をもらうわ」と…
山田さんは、相続対策を焦る出来事があったといいます。
「じつは先日、結婚した上の娘が自宅へ立ち寄ったとき、妻と下の娘の前で、唐突に〈お父さんが死んだら、この家は私がもらうわ〉と口にしたのです」
山田さんは上の娘を廊下に連れ出すと、親が生きているうちからそのような話をするのはどうなのか、とたしなめ、だれに何を相続させるかは自分が決めることだから、娘からとやかく言われる筋合いではない、と強い口調で伝えたそうです。
「そうしたら、上の娘が逆上してしまいまして。〈働きもしないで財産を食いつぶしているのだから、家ぐらい私がもらうのは当然だ〉と。大騒ぎになってしまいました…」
山田さんは、後妻と下の娘が不安定になってしまったのは、周囲から守り切れなかった自分の責任であり、自分がいなくなったあとの生活を守るためにも、遺産の多くを後妻と下の娘に相続させたいと考えています。
「繊細で弱い妻と下の娘を、全力で守らなければ」
山田さんの相談を受け、筆者と提携先の税理士が資産状況を確認したところ、自宅の土地と建物の評価は2000万円程度でした。そこで、配偶者の特例を利用すれば、後妻に贈与できるとアドバイスをしました。
婚姻期間が20年以上あれば、居住用の財産は2000万円まで贈与税がかかりません。贈与すれば相続を待つまでもなく後妻の所有となり、そのあとは後妻の子である下の娘に相続させることができます。
この提案に山田さんは納得しました。そしてすぐ、自宅を後妻に贈与すると、今度は夫婦で筆者の事務所を訪れ、それぞれ遺言書を作成しました。
「上の娘には、結婚のときに十分な金銭を贈与しています。母親は違いますが、世界でふたりきりの姉妹です。繊細でか弱い妹を理解し、サポートするためにも、自宅と残りの預貯金は、妻と下の娘に渡すことで、納得してもらいたい。妻と下の娘は、どんなことをしてでも、私が全力で守らなければ…」
山田さんの思いは、遺言書の付言事項にも記載されました。
「苦労をかけてしまった妻も、病気でつらい思いをしている下の娘も、これでやっと安心してくれるでしょう…」
父親に自宅の相続を要求する上の娘には、納得できにくいことかもしれませんが、財産を保有する山田さんの意思が遺言書に残された以上、最優先されることになります。
手続き完了後、山田さんは安堵の表情を見せてくれました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。