(※写真はイメージです/PIXTA)

佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所 所長)が、令和5年度から実施される「改正戸籍法」について解説します。戸籍法の法改正には色々なポイントがありますが、今回は相続に関係する2つの改正点を見ていきましょう。

改正点①:戸籍の取得がラクになる

まず1つ目は、戸籍の請求そのものがラクになるということです。相続や婚姻・養親縁組などの手続きをする際には、戸籍謄本や戸籍抄本といった戸籍関係の書類を請求し、戸籍を書面として取得する必要があります。現行の戸籍法では、本籍地のある市区町村役場に請求しなくてはいけません。

 

具体例を挙げましょう。もし住所は東京だけれども本籍地は大阪にある場合、戸籍を取得するには、東京に住んでいながら大阪の市区町村役場へ請求しなければいけません。

 

実は私自身がそうでした。今は東京に住んでいますが、私の出身は大阪の泉大津市です。以前は本籍地を大阪のままにしていたので、戸籍が必要な手続きがあれば、大阪の泉大津市に戸籍請求をしなくてはなりませんでした。やはりちょっと面倒ですよね。

 

ましてや相続のための戸籍請求となるともっと大変です。現状の戸籍だけではなく、昔の戸籍まですべて遡らなくてはいけません。場合によっては、被相続人の方が転籍を繰り返していることもあるでしょう。たとえば大阪から東京、北海道、沖縄…というように本籍を転々と移していたら、従来の戸籍法だと、全部の本籍地に1個1個請求しなければなりませんでした。

 

しかし改正後の戸籍法では、最寄りの市区町村役場の窓口ですべて請求することが可能になります。すごくラクになるのですね。

 

私の場合でいうと、本籍は最初大阪にあって、その後東京に移しています。そのため現行法では、もし私が亡くなったら東京と大阪の2ヵ所に戸籍を請求しなくてはいけませんでした。それが、改正後は“最寄り”の市区町村役場の窓口で、大阪にいた頃の戸籍も含めて一括請求できるようになるのです。

 

法改正後は、法務省のほうで情報を全部集約させる形になります。

 

図表1をご覧ください。A市やB町、C村などでの戸籍がそれぞれ「除籍」となっていますが、すべての市区町村役場が法務省の新システムへ情報提供をすることによって、法務省が全データを一括管理するようになります。最寄りの市区町村役場は法務局に照会をかけて情報提供を受けられるので、他の市区町村役場にあった戸籍を提供できるようになるということですね。

 

出所:法務省民事局「戸籍法の一部を改正する法律の概要」
[図表1]本籍地以外での戸籍謄抄本の発行① 出所:法務省民事局「戸籍法の一部を改正する法律の概要」

戸籍取得はラクになるが…注意点も

法改正により戸籍請求が格段にラクになるものの、実は2つほど注意点があります。

 

①郵送請求が認められない(窓口請求のみ)

1つ目は、郵送請求は認められないということです。戸籍を請求するには、役場の窓口に直接行かなくてはいけません。最寄りの役場で請求できるようになるとはいえ、やはり郵送できたほうがもっとラクですよね。

 

最寄りの市区町村役場といいつつ、お住まいから遠いこともありますよね。郵送でも対応できるようになればよかったのですが、残念ながら、改正後も窓口請求しか対応できません。いちいち窓口に行かなければならない点にはご注意ください。

 

②職務上請求や代理人請求の対象にならない

2つ目は、司法書士等による職務上請求や代理人請求の対象にならないという点です。

 

私たち司法書士は、委任状をもらったり、場合によっては職務上請求といって、国家資格者としての職権で戸籍謄本を請求できます。しかし改正後の「最寄りの市区町村役場で一括請求する」という新しいシステムでは、私たちが相続手続きを請け負って皆さんの代わりに戸籍を集めるという方法ができません。

 

戸籍請求の本質は「書面を取ること」ではなく「中身を見ること」です。中身を見て相続人が誰なのかを確定するという、戸籍を読み解く作業が重要なのです。

 

専門職に代行請求してもらうには手数料が発生しますし、もちろん、ご本人である皆さんが直接取得すればお金はかかりません。ただ本質が「中身を見ること」にある以上、イチから専門職に任せたほうがラクだという方もいらっしゃるかと思います。そう考えると、本改正は、一般の方々にとっては選択肢が減ることになるのかなと思います。

改正点②:「戸籍電子証明書」が発行可能になる

相続に関係する改正点として、もう1つは電子証明書の発行が可能になるということです。今回の改正によって、自分や自分の親の電子的な戸籍記録を発行できるようになります。

 

図表2をご覧ください。オンライン上で市区町村役場(最寄りで構いません)へ請求すると、その市区町村からパスワードが発行されます。そのパスワードを、戸籍の提出を求められている行政機関などに提出することで、書面での戸籍は提出不要になるという制度です。

 

出所:法務省民事局「戸籍法の一部を改正する法律の概要」
[図表2]本籍地以外での戸籍謄抄本の発行② 出所:法務省民事局「戸籍法の一部を改正する法律の概要」

 

パスワードを提出された行政機関は、発行元のアクセスサーバーへとアクセスして電子証明書を請求します。そして電子証明書をダウンロードしたら、そのパスワードで中身を見ることができるという仕組みです。

 

行政機関としては、パスワードさえ発行してもらえば自分のほうからサーバー側へと中身を見に行けるようになるわけです。まさにペーパーレスですね。紙の使用も削減できますし、紙を保管する必要がなくなるわけですから、すごく便利になるかと思います。

改正の目的はあくまで「行政機関の負担減」?

ただ、先述の戸籍請求にしても電子証明書の発行にしても、受け手側である行政機関のほうがラクになる改正になっているのではないかという印象を受けます。

 

最寄りの市町村役場で戸籍を一括請求できるのは一般の方々にとっても負担が減る部分ですし、行政機関の事務手続きが減れば、そのぶん税金を削減できるという話にもなりますので、巡り巡って自分たちのメリットになるかと思います。しかし、電子証明書の取得についても、恐らく専門職が代理で行うことはできないでしょう。このような部分も含めて、国家資格者に限ってでも代行請求できるようにするなどしたほうが、一般の方々にとってよりメリットのある制度になるのではないかと思います。今後の改正で進めてもらえればと考えています。

 

【動画/令和5年度から相続手続きで戸籍の取得がめちゃくちゃラクになる】

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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