株価&ドルは上昇・公共投資の効果はイマイチ・成長戦略は地味過ぎて…あの〈アベノミクス〉を振り返る

株価&ドルは上昇・公共投資の効果はイマイチ・成長戦略は地味過ぎて…あの〈アベノミクス〉を振り返る
(※写真はイメージです/PIXTA)

2012年末に成立した第2次安倍政権は、経済政策として「3本の矢」と呼ばれる基本政策を掲げました。第1の矢は「大胆な金融政策」、第2の矢は「機動的な財政政策」、第3の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」です。それぞれどのような効果が出たのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が振り返ります。

金融緩和の偽薬効果で「株価とドルが値上がり」

世の中に大量の資金が出回れば、株価もドルも一般物価も値上がりして景気がよくなるはずだ、という期待して大胆な金融緩和をした結果、株価とドルは値上がりしましたが、一般物価は値上がりしませんでした。

 

その理由のひとつは、コスト等の違いです。証券会社の株は保管コストが不要で大幅に値上がる可能性がありますが、スーパーのカブは保管コストが必要な上、大幅に値上がりする可能性は少ないので、来年食べるカブを買い急ぐ人はいなかったのです。

 

しかし、はるかに重要なのは、株とドルには偽薬効果が働いたが、カブには働かなかった、ということです。ゼロ金利下での金融緩和では、世の中に資金が出回らず、何も変わらないはずなのに、株とドルは値上がりしたのです。

 

金融緩和というのは、銀行の保有する国債を日銀が購入して代金を支払うことですが、銀行は受け取った代金をそのまま日銀に預金してしまうので、何も起きないのです。「銀行が政府に貸している」状態から、「銀行が日銀に預金し、日銀が政府に貸している」状態に変化するだけですから。

 

それを理解するためには、銀行がなぜ国債を持っていたのかを考える必要があります。借り手が大勢いるならば、そちらに貸した方が利益になるので、銀行は国債を保有したいとは思いません。借り手がいないから仕方なく国債を持っているわけです。そんな時に日銀から売却代金が入っても、それを貸出に使うことはできないので、日銀に預金するしかないわけですね。

 

筆者は元銀行員なので、そうなることを知っていましたが、一般の投資家は「世の中に資金が出回るから株価等が上がるだろう。いまのうちに買っておこう」と考えて買い注文を出したわけです。それで株価等は実際に上がった、というわけですね。

 

株価やドルが値上がりしたことで、景気は回復しました。その意味では、黒田日銀総裁は「何の効果もないはずの政策(ゼロ金利下の金融緩和)で景気を回復させた」わけです。医療の世界には、「偽薬効果」という言葉があるそうです。患者に薬だといって小麦粉を渡すと、飲んだ患者の病が治癒するという現象だそうです。今回は、これと似ているので、「黒田総裁は偽薬効果で日本の景気を回復させた」と筆者は高く評価しています。

 

さて、筆者は「世の中に資金が出回らないから株価が上がるはずはない。株を買うのはやめよう」と考えたでしょうか、株を買って儲けたでしょうか。実は、後者なのです。それは、ケインズの美人投票という話を知っていたからです。

 

ケインズは、株価を当時の美人投票に喩えたわけですが、説明を省略して要点だけ記すと「株で儲けたかったら真実を追求するより他の投資家の考えていることを探って真似しなさい」といったわけです。

 

筆者は真実(資金が出回らない)を知っていましたが、銀行員ではない投資家たちは知らないで買い注文を出しているわけですから、筆者もほかの投資家のまねをしたのです。結果として、何度も飲みにいきました。そのたびに「黒田総裁、ありがとう!」といって乾杯をしたわけですが、いま思えばケインズ先生に感謝すべきでしたね。

 

今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを優先していますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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