常にイメージ化を意識する
今回は皆さんが学習や仕事などで直面するさまざまな状況において、知っておくとやりとげるための武器となる記憶の方法、または、上手な脳の使い方について紹介していきます。当然ながら、場面や状況ごとに具体的なやり方は違ってきます。しかし、全体を通して流れているテーマともいえる方法の基盤はイメージです。
イメージの重要性ついては、何度か紹介しましたので、ここでは詳しい説明は省きます。しかし、基本的に記憶を含め、脳の力を使って行われる作業はすべてイメージによる思考を意識していただきたいのです。
イメージとは映像だけではありません。頭の中に浮かべることができるものは、すべてイメージです。常に映像をはじめとした感覚、感想、印象、概念などのイメージ化を意識してください。
例えば、小説を読んでいるとしましょう。頭の中にありありと映像が浮かぶ箇所も出てくることでしょうが、ほかの箇所では映像が浮かばないこともあるでしょう。
だからといって、それは内容が理解できなかったわけではありません。はっきりとした映像にはならないけれど、すでに頭の中にある思考の枠組みに照らし合わせて生じた形のないイメージを読み取ることができるからこそ、理解ができたというわけです。
イメージ化は、スキルアップのツールでもありますが、このツールを意識して使い続けてください。そして、使いこなせるようになると、いつの間にか基礎体力としての「脳力」も向上していることに気付くはずです。その脳力とは、記憶能力、想像力、集中力、頭の回転の速さ、作業効率、閃き、メンタルコントロールのことです。
これから紹介するメソッドは、実用的なツールという意味に加えて脳のトレーニングツールであるともいえます。そのことをいつも頭の隅に置いて、自分の置かれている場面・状況にあたってください。意識しているかしていないかが、将来的に大きな実力差を生みます。もし皆さんが意識的にイメージ思考を続けたならば、皆さんの脳力のステージは飛躍的に向上していくことでしょう。
「サバイバル効果」で記憶を定着させる
(1)プライマーリーディング
ビジネスにおいては、資料などドキュメントを読み込まなければならない場面は多々あると思います。そこから情報収集して今の業務に活かすにせよ、何か新しいアイデアを創り出すにせよ、リーディング能力というのは強力な武器です。
実は、すでに世の中に紹介されている読書術や速読術の多くの原理というものは、これから紹介する考え方に集約されるといっても過言ではありません。
「プライミング効果」という心理学的効果をご存知でしょうか。事前に体験・経験したこと=刺激を「プライマー」といいますが、そのプライマーがその後、思考や行動に対して無意識のうちに影響を及ぼすという効果です。
このプライミング効果は、事前の経験がその後の行動だけではなく、認知機能にも影響を与えるということがわかっています。その効果は、ある実験結果から「サバイバル効果」とよばれています。
実験参加者のうちあるグループには、始めに例えば、無人島などに1人取り残されたというようなサバイバルが必要な状況を想像してもらいます。その状況に自分がいるというイメージングをしてもらったあと、すべての実験参加者に複数の単語を見てもらいます。
それらはランダムに選ばれた「トラック」「ジュース」「銀」「ドア」などの単語で、次々に表示されます。そして、すべての実験参加者に、出てくる単語に対して、それらがサバイバルをするときに役立つかどうかを判断することを求めます。
その後時間をおいて、単語をいくつ覚えているかという記憶のテストを行ったところ、サバイバル状況に置かれていると想像した実験参加者たちのほうが、何も行わなかった実験参加者に比べ、記憶している単語の数が多いという結果になったのです。
目にした情報が、事前に意識に入っている知識と少しでも関連したものであった場合、脳はその情報を際立たせるため速く読むことを可能にし、また、記憶の定着も自動的に促進するということなのです。
世にある多くの読書術や速読術なども、この効果を利用しているというわけです。事前のインプットが脳にとっての探知機となり、必要な情報を優先的にピックアップしてくれるというしくみを使っているということです。