「プライミング効果」を利用した勉強方法
私から山田さんにアドバイスしたのは、実は記憶法や学習法のような技術的なものだけではありません。山田さんの場合、最終目標は資格試験の合格です。合格するためには、長期間の勉強が必要になってきます。
過去に同じような経験をされた方ならわかると思いますが、長期の試験勉強を乗り切るには、学習に関するテクニカルな要素だけでなく、気持ちの占める割合がとても大きいのです。場合によっては、勉強の習慣化やモチベーションの維持というようなメンタルに関するコントロールのほうが、テクニカルな面よりも重要ということもありします。
しかし、当然ながら、これは意志の力を必要とします。自分を戒めて意志力をキープするのは、なかなかに至難の技です。
では、意志力を使わず目標に向かって最適な行動を促すことができるなどと都合のいい方法はないのでしょうか。それが、あるのです。
山田さんのケースに限らず、目標達成に向けて成功の確率を上げる方法を心理学的見地から導くことが可能なのです。簡単にいうと、自分の脳に自動運転してもらうイメージです。ここで紹介する心理学的効果を、「プライミング効果」といいます。
プライミング効果とは、事前に体験・経験したことが、その後、思考や行動に対して無意識のうちに影響を及ぼす効果です。無意識のうちにある方向に動くことになるので、脳による自動運転というわけです。この効果の基になるのは、頭の中にすでに保管されている「記憶」です。
しかし、ここでいう記憶とは、これまで説明してきたような意志をもって覚え、その後、意識的に取り出すことができる記憶とは少し違います。「潜在記憶」といって、頭の中には入っているけれども、自分では意識していない情報の記憶のことを指します。
皆さんは普段、この潜在記憶などまったく意識せず暮らしていると思います。しかし、実は皆さんの行動は、無意識に潜在記憶によって決定していることが往々にしてあるのです。ただ、それに気付いていないだけなのです。
身近なケースで説明すると、例えば夜に食べ物特集のテレビ番組を観たとします。テレビを観ているだけなので、特にこれを覚えようなどとは考えません。ところが、無意識にその記憶が頭の中に残り、その影響で次の日の昼食のメニューを決めるということがあります。本人は自分の意志で決めたと思うでしょうが、実は、前の日の潜在記憶が多分に関わっているということなのです。
もう1つ、プライミング効果の影響が大きいという例を紹介します。プライミング効果が実際の行動に影響を与えることを示す実験の結果です。
ニューヨークの大学生に、5つの言葉の中から4つの言葉を選んで、それを使って短文を作ってもらうという実験をしました。その際、あるグループに対してのみ、言葉の中に高齢者を連想させるような、例えば「忘れやすい」「髪が薄い」「しわ」といった言葉を混ぜておいたのです。
そして、文章作成が終わったあと、学生たちに次の実験があるからといって別室に移動させるのですが、実はこのとき、学生たちの移動時間を密かに測定していたというわけです。その結果、高齢者に関する言葉をたくさん使うことになったグループは、実際に歩く速度が他のグループに比べて遅くなったという結果が出たのです。これは、高齢者というイメージを持つことによって、実際の行動自体に無意識に影響を与えたということを示しています。
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