事業投資による「内部留保の拡大」が究極の節税につながる理由

事業投資による「内部留保の拡大」が究極の節税につながる理由

前回は、現金を残すことで引き出せる「好条件の融資」を活用した財務戦略を紹介しました。今回は、事業投資による「内部留保の拡大」が究極の節税につながる理由を説明します。

内部留保が厚い企業ほど、金融機関からの与信度が高い

節税で会社にキャッシュを残すと、相対的に「内部留保」が小さくなります。内部留保とは、これまでの利益の累計から、これまで支払ってきた税金や配当などを差し引いた「利益の蓄積」のことです(下記の図表1参照)。

 

[図表1]内部留保について

 

一般には、貸借対照表(バランスシート、BSとも言います)における自己資本の「利益剰余金」の部分を指します。この利益剰余金は、損益計算書の「当期純利益」から振り替えられたもので、毎年の当期純利益の蓄積が内部留保ということです。

 

当期純利益は売上高から売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失などを差し引き、最後に法人税等を除算した最終的な「儲け」を指します。これが意味するのは、節税をするほど当期純利益は小さくなり、節税をせずに税金を払うほど当期純利益は大きくなるということです。

 

損益計算書の具体例を挙げて説明します(詳しい計算は省略)。

 

仮に何も節税をせず、税引前当期純利益が1000だったとします。法人税等は340、当期純利益は660となります(下記の図表2参照)。

 

[図表2]節税による内部留保の変化

 

一方、節税を図るために使っていない古い機械設備を廃棄したことで、固定資産除却損200を損金計上し、税引前当期純利益は800に減りました。これによって法人税等が272になり、結果として当期純利益は528になります。

 

節税によって税金(法人税等)を68(340-272)減らすことができました。その結果、本来は税金として出ていくはずの68が、会社にキャッシュとして残ることになります。

 

しかし一方で、税金を減らすために損金を計上し利益を圧縮したことで、当期純利益が660から528に減少してしまいました。つまり、節税によってキャッシュが増えた一方、利益剰余金(内部留保)は小さくなってしまったのです。

 

この内部留保の厚みも、会社の財務体質を強化するうえで大変重要です。現預金と同様、内部留保が分厚い企業ほど金融機関からの与信度が高まり、好条件の融資が受けられるようになります。

 

●節税で利益を減らす=キャッシュが増やせる一方、内部留保は小さくなる

●節税をせず利益を増やす=キャッシュが減る一方、内部留保は大きくなる

 

この両者のバランスをうまく取りながら、現預金と内部留保の2つを拡大させていくのが本当に巧みな経営の舵さばき――すなわち「究極の節税」の最大のポイントです。

 

節税をするだけでは内部留保は小さくなりますが、究極の節税は「事業投資」も重視します。キャッシュと借入を新たな事業活動に積極的に投資して、事業を拡大させることで利益が増大し、その結果として内部留保を大きくできるのです。

財務・事業基盤の強化で「継続する会社」を築く

このように、「節税によるキャッシュの増大」と「事業投資による内部留保の拡大」を同時進行で行いながら、財務基盤と事業基盤を共に強化していくのが「究極の節税」です。

 

究極的に強い会社を目指すとすれば、貸借対照表は理想的には、下記の図表3のようになります。資産の部は「現預金」のみで負債はゼロ、「自己資本」100%の会社です。中小企業の場合は前述のように借入も上手に利用しながら事業拡大を目指していくべきなので、自己資本100%というのは実際には現実的ではありません。

 

[図表3]理想的な貸借対照表

 

あくまで理想像ですが、これ以上の〝最強の会社〞がないのは事実です。

本連載は、2016年8月2日刊行の書籍『税務署が咎めない「究極の節税」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務署が咎めない 「究極の節税」

税務署が咎めない 「究極の節税」

辻 正夫

幻冬舎メディアコンサルティング

「せっかく稼いだお金を税金に持っていかれてたまるか!」 そんな思いから多くの経営者が節税に励んでいます。しかし、ひとたび節税の方法を間違えると税務署から捜査の手が入り、経営が楽になるどころか危機的な状況に陥り、…

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