人材不足のピンチを乗り越えるため、筆者がとった行動
5人の歯科医師が退職したあと、こんどは7人の女性歯科医師と歯科衛生士が産休に入るという窮地に陥りました。経営どころか診療自体もままならないという事態です。
育児休業に入ると1年以上は帰ってきません。残ったメンバーで変わらない予約数の診療を回していかなくてはいけなくなったのです。採用活動も少しはしましたが、抜けた分の人員を埋めることなどできない人数しか集まりませんでした。
そこで、1人ひとりの能力を最大限に引き出す方法はないか、経営安定のために診療システムを変えることができないかと考えました。
そこで私は、これまで2〜3人の歯科医師で診療していた患者数に1人で対応できるようにするため、歯科医師の説明の時間と内容を最小限にして治療だけに専念してもらうことにしました。
その後患者様への説明はすべて歯科助手が引き継ぎ、歯科衛生士ができる業務の範囲も最大限広げました。こうして少ない人数でも売上を落とさずに乗り切ることができたのです。
具体的には、まずは歯科医師には「○○の治療は、全体を□分で終えるようにしてください。治療と説明は医院で統一した方法と内容でやってください」と言って、自分のカラーを出さないように伝えました。
しかし歯科医師にとっては自分がやってきた治療にプライドがあり、いきなりカラーを出さないようにと言われても戸惑いや反発もあると思います。
そこで、「今医院はスタッフの人数が減って大変な状況です。売上を落とさないために診療効率を上げないといけないから、治療を担当制ではなくほかの医師でも替われるシステムにしたい」というふうにカラーを出さない理由をしっかり説明することで理解を得ました。
次に、歯科衛生士や歯科助手などの女性スタッフには「業務の範囲を最大に広げてください」と言って、それまで歯科医師が行っていた業務のうち歯科衛生士や歯科助手が担当しても問題ない部分を引き継いでもらいました。
それまで担当していた業務にプラスされたため、急に業務量が増えて負担が重くなり不満に思う女性スタッフもいたのではないかと考え、「今は医院がピンチだから、売上を下げずに効率良く診療できるように、みんなも助けてほしい」と女性スタッフの業務が増える理由を正直に話しました。
同時にその業務の歯科医院における重要性と、患者様にとっても女性スタッフの仕事がいかに大切であるかを説明し理解してもらいました。
その結果、特定の歯科医師に依存しないで歯科助手と歯科衛生士の能力を最大限活用でき、かつ以前よりも利益率の高い診療システムができました。その後歯科医師が通常の人数に増えてもこの診療システムは変わっていません。
まさにピンチはチャンスで、窮地に追い込まれて一生懸命考えて乗り越えた結果生まれたのが、女性スタッフの能力を最大限に引き出し活用する、かつ経営を安定させる診療システムだったのです。
村瀬 千明
歯学修士
日本矯正歯科学会認定医