インスペクションによって得られた「安心」が「価値」になった
インスペクションで1ヵ月を要し、売り出しスタートから2ヵ月で取引成立、トータルで3ヵ月掛かるかどうかの売却事例でした。家の価値をきちんと評価したうえでの売却に、仁川さんも報われる思いだったと思います。何より大切にしてきた家の本当の価値を分かってもらえる方に出会えてよかったと、担当エージェントBと喜びを分かち合うことができました。仁川さんとは現在も連絡を取り合う仲で、転居先での生活を伝える便りをもらっているとのことです。
担当エージェントBとしても、今回の新しいチャレンジを成功に収めることができたのは大きな収穫でした。インスペクションは本来であれば買主が物件を審査する際に行うものです。売主があえて先手を打って実施し、建物の情報をオープンにしてから売り出すという、定石から外れた不動産売却事例をつくれたことは、業界的にも大きな一歩であったといえます。
仁川さんのケース以降、築年数を経ているものの問題なく住める状態の中古戸建てに関しては、インスペクションを実施してからの売却を積極的に提案するようになりました。
売却時のインスペクションは各部位のグレードと残存価値を調査していることがポイントです。注文住宅であれば、インスペクションを実施したうえでの売却はかなり有利といえます。建築主のこだわりが随所にあり、グレードの良いものを使っていることも多く、それをきちんと建物価値として反映させることができるからです。
実際の売却事例としては、築15年ほどであれば、修繕を一度もしていなかったとしても平均して800万円程度の建物価値を出すことができています。
25年を超えていても、雨漏りやシロアリ対策といった最低限のメンテナンスを怠っていなければ、300万~400万円ほどの価値をインスペクションで出すことができています。
この方法によって、税法上ではせいぜい1割程度の残存価値しかない建物にも適正な価値を見出し、土地に上乗せした価格にて売却することができています。
仁川さんのケースのように、プラス要素もマイナス要素も包み隠さず可視化して伝えることが、買主にとっての安心材料につながります。双方が納得できる適切な価格での取引を実現し、後々のトラブル発生回避に一役買ってくれています。安心を価値として換算してくれるインスペクションが今後の中古物件取引のトレンドとなっていければ、買主と売主双方にとってより安心確実な不動産取引が増えていくことになります。
大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長
長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長