(※画像はイメージです/PIXTA)

相続対策としてもっともよく用いられる方法の一つが、贈与税の年110万円の基礎控除を利用した「暦年贈与」です。ただし、「年110万円」という金額にとらわれると、そのメリットをフルに受けられない可能性があります。本記事では、暦年贈与の損益分岐点について解説します。

損益分岐点の計算シミュレーション

では、以下の具体例を用いて、暦年贈与の損益分岐点がいくらになるか、計算してみましょう。

 

・推定相続人:配偶者と子2人

・現時点の財産:3億円

 

まず、相続税の実効税率を算出します。相続税の計算方法については「相続税の計算方法|自分で計算するための基本的な知識とシミュレーション」をご覧ください。

 

まず、基礎控除額を差し引きます。基礎控除額は、

 

3,000万円+600万円×法定相続人数

 

なので、このケースでは4,800万円です。したがって、相続税の課税対象となるのは2億5,200万円です。

 

次に、配偶者と子のそれぞれの仮の相続分を算出します。配偶者と子2人の法定相続分は以下の通りです。

 

・配偶者:2分の1

・子(2人):2分の1×2分の1=4分の1

 

したがって、配偶者と子2人のそれぞれの仮の相続分は

 

・配偶者:1億2,600万円

・子(2人):6,300万円

 

となります。これらに【図表1】の相続税の速算表を適用し、各自の仮の相続税額を算出します。

 

・配偶者:3,340万円

・子(2人):1,190万円

 

これらを合計すると、相続税の総額は5,720万円となります。したがって、相続税の実効税率は

 

5,720万円÷3億円=19.07%

 

です。

 

これに対し、贈与税の実効税率が19.07%未満となるラインは、直系尊属から18歳以上の子・孫に贈与する場合(特例贈与財産・【図表2】参照)には、1,118万円が損益分岐点となります。

 

したがって、計算上は、毎年1,118万円を贈与していくことがもっとも効率が良いことになります。

 

ただし、実際には、相続までの間に財産の額は変動しますので、それも考慮に入れて、計算上の損益分岐点の額よりも低い額に設定しておくほうが無難です。

暦年贈与は廃止されるのか?

なお、暦年贈与が廃止されるのではないかという噂があります。

 

それは、与党(自民党・公明党)の「令和3年(2021年)度税制改正大綱」に「相続税と贈与税の一体化」の提言が記載されたためです。

 

しかし、「相続税と贈与税の一体化」が直ちに暦年贈与の廃止につながるとはいえません。というのも、提言をみるかぎり、問題視されているのは、暦年贈与に限らず、生前贈与の非課税の制度一般についてです。

 

すなわち、生前贈与の非課税の制度は、相続税対策が必要な富裕層にとって利用しやすいいっぽう、それ以外の人にとっては活用のメリットがないため、高齢者から若年層への財産の移転が阻害されているというのです。

 

このことからすれば、改正されるべきは相続税・贈与税の制度全般であり、暦年贈与のみを取り出していきなり廃止とすることは考えにくいといえます。しかも、与党が、大きな支持基盤である富裕層に利益に反することを真っ先に実施することも考えにくいといえます。

 

したがって、現状では、とりあえず現行の暦年贈与を利用するという態度で差し支えないと考えられます。

 

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