(※写真はイメージです/PIXTA)

大地主の祖父が亡くなり、相続が発生。跡継ぎに指名された孫養子の男性は手続きに奔走しますが、調整区域にある所有地をはじめ、評価が高い土地が多いため、納税資金の捻出に頭を抱えています。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「土地や墓を守るよう、祖父から懇願されていて…」

今回の相談者は、30代会社員の坂本さんです。地主の祖父が亡くなり、相続について相談したいということで、筆者の元を訪れました。

 

坂本さんの家系は代々続く農家で、祖父は広い土地を所有していました。坂本さんの父親は祖父の長男にあたりますが、高齢となった祖父が農業を引退してすぐ、脳梗塞で倒れてしまいました。そのため、孫の坂本さんが跡継ぎになるべく、農業を手伝うようになりました。祖父は坂本さんを跡継ぎとして頼りにし、養子としました。

 

祖父の相続人は、配偶者・長男・長女・二女・養子(長男の子=坂本さん)の、合計5人です。

 

「坂本家は400年続いた専業農家なのです。亡き祖父の財産の大半は土地でして、自宅とその周辺の調整区域の農地です。専業農家だけに畑がないと生計が立てられませんから、代々農地を守るのが跡取りの務めであり、自分の代で没落するわけにはいかないのです」

 

坂本さんからは、強い信念が伝わってきました。

 

祖父が農業からリタイアしたあとは、坂本さんは両親とともに農業を手伝うようになりましたが、しばらくして父親が脳梗塞で倒れたことで、跡取りとしての自覚が出てきたそうです。祖父が養子になるように決めたのも、そのころのことでした。

 

祖父は「農地を分けることはできない」という考えから、公正証書遺言を準備してくれました。大部分の財産を長男と孫の坂本さんに相続させ、娘2人は現金、配偶者の祖母には二次相続の不安をなくすため、相続なしという内容でした。

 

農家を継ぐことが決定した坂本さんは、生前の祖父から、土地や家やお墓を守るよう、再三にわたって頼まれたということです。祖父が亡くなってから、相続税をなんとかもう少し圧縮して乗り切れないか、いろいろと調べるうちに筆者にたどり着いたということです。

調整区域内の自宅敷地…相続税はかなりの高額に

坂本家の近隣は、大規模な開発で山が切り開かれており、大きなニュータウンがいくつも広がっています。坂本さんの自宅は調整区域にあり、ほとんど昔のままで、自宅の裏は山林です。道路も狭く、車一台が通るのがやっとの状態です。

 

ところが、相続の評価は固定資産税評価に倍率を掛けるため、自宅周辺だけでもかなりの評価になってしまいます。また、相続財産の中に納税に足りる現金がないことから、納税の方法を考えなくてはなりません。

鑑定評価を行い、評価減を狙う

市街化区域の土地であれば、「地積規模の大きな宅地の評価」ができるため減額の余地がありますが、調整区域には適用できません。しかし、倍率だと高すぎると思われるため、筆者は提携先の税理士とともに検討し、「測量して鑑定評価をするしかない」という結論になりました。

 

そこで、自宅と裏山の2ヵ所を鑑定評価して減額。また別の場所は、無道路地となって建築許可が取れない土地となっており、こちらも路線価による評価では実態とかけ離れてしまいます。そこで、同じく鑑定評価をし、路線価の5分の1としました。

 

3ヵ所の土地の鑑定評価により、当初予定していた相続税から約半分にまで減額ができ、相続税の申告をすることができました。

納税資金の捻出のため、貸し地を売却

また、筆者と税理士は、納税資金の捻出に貸し地の売却が妥当だと判断しました。

 

相続税の評価相当であれば売却をした方がいいと坂本さんに提案したところ、地元の不動産会社が一括で買い取ってくれることになりました。物納申請もすませていましたが、それよりもかなり早く売却が決まり、相続税の納付期限に間に合ったことで、現金納付ができたのです。

 

物納では決まるまで不安だったという坂本さんは、早く売れたことをとても喜びました。

まとめ

「私は亡くなった祖父から、ことあるごとに〈家をしっかり継いでくれ〉〈坂本家を頼む〉といわれていました。祖父の気持ちは痛いほどわかります。自分の代で、坂本家を没落させるわけにはいきません」

 

筆者は坂本さんの毅然とした態度に、何代も続く家を継承する責任の重さを見た思いでした。

 

大地主の本家に生を受けることは、安楽で恵まれた生活を約束されたように思われがちですが、現実問題、資産の維持は並大抵ではありません。

 

坂本さんの祖父が公正証書遺言を残したのも、土地の分散を避けるためですが、ほかの相続人たちも一様に、農家が楽ではなく、歴史ある家の継続が非常に大変であることを理解していたため、遺言書に記載された代償金で全員が納得したのでした。

 

今回は、土地の評価で節税できたこと、また、タイミングよく貸し地の買い手が見つかりスムーズな納税できたことなど、こちらが想定したとおりに手続きが進み、坂本さんにも大変喜んでいただくことができました。

 

調整区域の土地について、倍率が高すぎると思われる場合は、減額を実現するために、鑑定評価をしてみるのも有効な方法です。

 

また、貸し地は地代が入るものの、所有していても自由度が低くメリットが少ないため、相続のタイミングで売却し、納税資金にすることを検討してもいいでしょう。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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