(※画像はイメージです/PIXTA)

自民党の茂木敏充幹事長は2022年10月24日、出産した場合に健康保険から受け取れる「出産育児一時金」の支給額を、来年度から、現行の42万円に5万円引き上げて47万円とする考えを明らかにしました。出産費用の上昇を加味したものです。しかし、子育て支援・少子化対策を全体としてみると、有効性にはなお課題が残ります。問題点について解説します。

出産育児一時金とは

まず、出産育児一時金の概要についておさらいしておきます。

 

出産育児一時金は、自分自身または扶養家族が出産した場合に、健康保険から、子ども1人につき、原則として42万円を受け取れる制度です。

 

ただし、この支給額は、出産した医療機関が「産科医療補償制度」に加入していない場合は40.8万円となります。「産科医療補償制度」は、分娩に関連して子どもが重度脳性麻痺を発症した場合に、経済的な負担を補償する制度です。

 

出産育児一時金の支給要件は「妊娠4ヵ月(85日)以上で出産したこと」です。「出産」には早産だけでなく、死産、流産、人工妊娠中絶の場合も含まれます。

 

加入している健康保険組合によっては「付加給付金」を受け取れることもあります。

 

出産育児一時金には、医療機関へ直接支払ってもらえる「直接支払制度」があります。なお、直接支払制度を利用して出産費用が42万円未満だった場合は、差額を健康保険組合に請求することができます。

出産育児一時金が13年間「据え置き」の一方で出産費用は増加

出産育児一時金は1994年に新設されたものです。

 

支給額は以下の通り推移してきており、2009年10月に42万円となってから今日に至るまで13年間変わっていません。

 

【出産育児一時金の支給額の推移】

・1994年9月~2006年9月:30万円

・2006年10月~2008年12月:35万円

・2009年1月~2009年9月:38万円(35万円+産科医療補償制度掛金3万円)

・2009年10月~2014年12月:42万円(39万円+産科医療補償制度掛金3万円)

・2015年1月~2021年12月:42万円(40.4万円+産科医療補償制度掛金1.6万円)

・2022年1月~:42万円(40.8万円+産科医療補償制度掛金1.2万円)

 

これに対し、出産費用は上昇しています。

 

【図表】は、2012年~2019年の出産費用の「平均値」「中央値」をまとめたものです。この間、一貫して上昇してきています。

 

厚生労働省保険局「第136回社会保障審議会医療保険部会資料」より
【図表】出産費用の推移(全施設) 厚生労働省保険局「第136回社会保障審議会医療保険部会資料」より

 

2012年の平均値は416,728円、中央値は410,110円だったのが、2019年には平均値460,217円、中央値451,120円と、7年間で約10%上昇しています。また、2022年分はさらに上昇するものとみられます。

 

しかも、所得が伸びないうえ、国民は消費税の重い負担や折からの物価上昇にあえいでいます。

 

このことからすれば、出産育児一時金を5万円引き上げることは、ある程度実情に即した対応だといえなくもありませんが、不十分であり、かつ、遅きに失している感が拭えません。

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