「中国と敵対」している場合ではないワケ
例えば、米国とカナダの関係である。人口比で8.8倍、GDP比で11.9倍もある米国に、隣国カナダが対等に付き合っている。それは、カナダに質の高い文化・教育をベースとしたものづくりが息づいているからである。
同じように人口比で日本の12.5倍、GDP比で2.3倍の中国ではあるが、クオリティー国家としての日本は中国と対等、あるいは対等以上に付き合うことができるはずだ。
敵対していては相互に不利益しか生まれない。中国は数千年前には「ものづくり大国」であったことを忘れてはならない。
さらに研究開発のハードは日本が優れているとはいうものの、弱点は情報・ソフト関連である。欧米との協力はもちろんであるが、若い研究者の多いインドとの協力推進が不可欠である。
個人が思いを主張する社会
日本および日本のものづくりの再興において、最も大切なことは幕末・明治および戦後の偉人に見られたように、個人が自分の樽作りをする点にある。
日本という樽作りに没頭する個人が少なくなってしまった今、再度個人の活躍に焦点を当てるシステムを日本に作りたい。
根本的には、画一的な価値観・既存知識の塊で構成されたカリキュラム・協調と普通を強いる今の教育から、自己の「思い」を語り、ほしいもの、好きなものを見分け、自分で方向を決める自己責任型、個の確立型人間を育てる方向に転換することが急務である。
堀場製作所創業者の故堀場雅夫氏は
「21世紀の最大の変化は集団の時代から個の時代への移り変わりである。個、すなわち人間一人一人がそれぞれ独自の特質を活かし、独創的な発想と自分の価値観に忠実に生きる社会こそが日本の活力の根源となる」
と訴えている。そのためにはまず、大学入試方法の改革が必要となる。初等・中等教育および大学教育・社会人研修の「受け身学習」から「個人の思いを自ら主張できる」人間教育への抜本的転換である。
要するに、幕末・明治の時代に多く輩出した個人をもった人材を目指す人材教育に切り替えることである。
「みんな一緒」から「クオリティーの高い個人の考え」を引き出し、大切にする風土づくりである。小・中・高の時から個としての自分の意見を醸成し、それを表現し、相手にそれを説得する表現力を教育する方法に、大きく転換しなければならない。