相続人全員が「家」などの財産を相続放棄した場合はどうなる?
民法では、所有者のいない不動産は国庫に帰属するとしています。つまり、相続権利のある相続人全員が不動産の相続を放棄すると、その不動産は国に継承されることになります。
ただし、不動産を国庫に帰属させる手続きを行うには、弁護士や司法書士などを相続財産管理人に任命する申請を行い、申請が受理された後に、その不動産に相続人がいないことを法律的に確定させなければなりません。
相続財産管理人とは、相続財産の管理・精算手続きを行うために、家庭裁判所によって選任される人のことです。家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し出を行い、選任された相続財産管理人に管理を引き継ぐことになります。
相続財産管理人が管理を行う前に家の管理義務を怠っていると、建物の倒壊や火事、不法占拠やゴミの不法投棄などのトラブルが生じる可能性があります。
こうしたトラブルが起これば損害を受けた債権者や近隣住民、自身が相続放棄したことで相続することになった次順位の相続人などから損害賠償を請求されるおそれがあります。
相続人全員が相続放棄し、その家が誰のものでもなくなる場合、相続財産管理人または行政が処分することになります。しかし、どちらの場合でも相続放棄した人がその費用を負担する必要が出てくる可能性があります。
具体的には、相続財産管理人は自動的に選任されるわけではないので、家庭裁判所にその選任を申し立てる必要があります。しかし、そのためには20万円〜100万円程度の予納金を納めなければなりません。
また、行政による強制的な処分でかかった費用も、たとえ相続放棄していても、家の管理義務を負うべき人に請求される可能性があります。この行政の処分によって請求される費用は、相場よりも高額になるケースが多いため、注意が必要です。
相続放棄するかどうかは、これらの費用を含めて検討する必要があります。
相続放棄した家の管理義務を怠るとどうなる? 賠償責任を問われることも
管理義務を果たさないと、万一家が倒壊するなどして債権者や近隣住民などに損害を与えた場合に、その損害を賠償する責任を負わなければならない可能性が高くなります。
また、損害賠償請求まで起こされなかったとしても、近隣住民などから苦情が入り、トラブルに発展するおそれもあります。さらに、その空き家を不法に利用されてしまうことで、何らかの犯罪に巻き込まれてしまう危険もはらんでいます。
ここで要注意なのは、管理責任の義務があるからといって、対象の不動産を処分してもよいと勘違いしてしまうことです。
管理責任はあくまでも管理であり、処分はその範囲に含まれません。つまり、相続放棄者はその不動産を勝手に売却してはいけないのです。不動産を処分してしまうと法定単純承認が成立し、相続放棄がなかったことになり、すべての遺産を相続することになります。