ウクライナへの侵攻により世界中から非難を浴びたようにみえたロシアですが、「ロシアは国際社会から孤立している」という固定観念は危うく、戦争が終わってみると「新たなネットワークができあがっている世界」を目の当たりにするかもしれないと、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏はいいます。それはいったいどういうことか、みていきましょう。

西側の「ロシア封じ込め戦略」効果を発揮しないワケ

ロシアに対するどちらの決議も、中東、東南アジア、アフリカ、中南米で棄権が目立った。西側陣営の影響力が小さくなっていることを実感する。

 

2022年3月2日の決議で棄権したウガンダのムセベニ大統領は、「日本経済新聞」の取材に応じて〈ウクライナを巡る日米欧とロシアなどの対立について、「アフリカは距離を置く」と表明した〉(3月17日)。タイのプラユット首相も、侵攻が始まって間もない時期から「中立を保つ」と発言している。

 

アフリカや東南アジアの国々は、経済的な結びつきから中国に好意的であり、ロシアに対しては中立だ。ロシアは中東でも、アメリカ最大の同盟国であるイスラエルのユダヤ人社会に強いネットワークを維持している。

 

ロシアが独自に提出したウクライナの人権状況に関する決議案について、国連の安全保障理事会が採択を行ったのは3月23日だ。理事国15ヵ国中13ヵ国は棄権したが、中国だけがロシアと共に賛成に回った。

 

バイデン大統領が3月18日に習近平国家主席と電話会談をした際、「中国がロシアを支援した場合には制裁を科す」と脅したことが裏目に出た。中国はアメリカに反発したのだ。

 

このように、ロシアを封じ込めてプーチン政権を崩壊に追い込もうという目論見は、狙い通り進んでいない。停戦を実現させるには、アメリカが軍を介入させてロシアを排除するか、プーチン大統領の納得できる範囲で折り合いをつけて合意するか。このどちらかしか選択肢はない。

 

ロシアが目論んでいるのは、領域の拡大よりもネットワークの帝国づくりだ。これを歴史的に見ると、ビザンツ帝国(395~1453年の東ローマ帝国)の戦略と非常によく似ている。プーチン大統領は、あえてビザンツ帝国のやり方を真似ているのだと思う。

 

すなわち、地理的には離れていても味方を複数つくり、時勢に応じて適宜そのバランスを変えていく。中国、インド、ブラジル、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、イランなど、それぞれ力をもっている国が相手だ。

 

同じロシア語圏のベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナの東部や南部に対する情報戦略にも、プーチン大統領は積極的だ。

 

 

佐藤 優
作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授

 

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※本記事は、佐藤優氏の著書『プーチンの野望』(潮新書)から一部を抜粋し、GGO編集部にて再編集したものです。

プーチンの野望

プーチンの野望

佐藤 優

潮出版社

ロシアとウクライナの歴史、宗教、地政学、さらには外務官僚時代、若き日のプーチンに出会った著者だからこそ論及できるプーチンの内在的論理から、ウクライナ戦争勃発の理由を読み解き、停戦への道筋を示す。 〈戦争の興奮…

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