(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進展する日本では、地方の衰退にも歯止めがかかりません。JRは地方に多くの赤字ローカル線を抱えていますが、このまま現状維持を続けていては、JRの経営を圧迫するのはもちろん、都市部の利用者が地方ローカル線を支えるという状況が続くことになり、問題です。経済評論家の塚崎公義氏が、解決策を探ります。

「人口減少社会の国土のあり方」を議論すべき時かも…

実は、この問題を考えていくと、さらに深刻な問題が浮かび上がって来ます。鉄道が走っているような場所ではなく、山奥の寒村でバス路線しかない所は、バス路線が廃止されると生活できなくなる人が出てくる可能性があるわけです。

 

「赤字路線を廃止すると寒村の住民が可哀想だから、赤字バス路線も維持してやれ」と都市住民がいうのは簡単ですが、その際には「その費用は都市住民の払う税金で賄われることを覚悟しているから」と付け加える必要があるわけです。その覚悟が都市部の住民にあるのか否か、しっかり議論する必要があるでしょう。

 

いまは「費用がかかって財政が赤字になっても、赤字国債を発行すればいいのだから気にするな」という論者が多いようですが、そういう問題ではありません。政府の借金を返すために将来増税されれば、払うのは都市部の住民か、あるいはその子孫なのですから。

 

別の観点も必要です。じつは筆者は数年前まで、山間部の赤字バス路線を維持すべきだと考えていました。それは、バス路線の運行が失業対策になるからです。赤字国債で運転手を雇ってバスを運行することで、失業対策としての公共投資と同じような効果が得られると考えていたからです。

 

しかし、少子高齢化による労働力不足の時代を迎えると、失業対策が不要になり、むしろバスの運転手には都会の介護現場に転職してもらったほうがいい、という状況になってきたわけです。

 

あとは、どこまでサービスを続けるのか、ということですね。極端な場合、高齢者がひとりだけ住む山奥の寒村にバスを走らせるため、都会の住人が税金を負担し、しかも介護にほしい労働者をバス運転手として差し出しているわけですが、果たしてそれでいいのか、という議論が都会でなされるべきでしょう。この場合には、バスだけでなく、そもそも山奥まで通じる道路や水道管を補修したりすることまで考えれば、巨額のコストと多くの労働力が投入されているわけですから。

 

もちろん、山村の高齢者が「住み慣れた故郷を離れたくない」といえば、住み続ける権利があるわけですから、無理やり都会に連れて来ることはできません。したがって、バスなのかタクシーなのかはともかく、交通手段を行政が提供する必要があるのかもしれません。

 

しかし、それを避けるための工夫は必要でしょう。筆者としては、赤字企業がリストラする時に用いる手段である「割り増し退職金」を応用すればよいと考えています。

 

山奥の寒村であれ高齢者ばかりの離島であれ、30年後には誰も住んでいないであろう場所は「移住対象地域」と定め、「そこに住んでいる人々が集落ごと引っ越してくれたら多額の補助金を支払う」ということで丁重にお誘いするのです。

 

それによって彼らが引っ越してくれれば、税金面でも労働力不足の面でも大いに助かるわけですから、補助金の額はケチるべきではないでしょう。

 

一方で、アメと鞭の発想で、少しずつ寒村を住みにくくしていくことも選択肢かもしれません。生活できないようでは困りますが、バスを週に1度だけの運行にする、といったイメージでしょうか。もっとも、主はあくまで補助金ということにして、こちらは慎重に進めるほうがいいとは思いますが。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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