入居者の特定として行うには、まずは、契約者当事者である借主に連絡を取り、事情の説明を求めることになろうかと思います。借主が事情を説明してくれない場合には、現実の入居者に説明を求めることになります。問題となっている部屋に書面を送付したり、実際に訪問して名前や入居に至る経緯を確認します。
借主や入居者からも何らの回答が得られず、必要な調査をしても、どこの誰かということが特定できないということがあります。
その場合には、入居者に対する占有移転禁止の仮処分の申立てを行うことになります。
占有移転禁止の仮処分とは、勝訴判決を得ても、強制執行ができないという不都合を回避するため、建物明渡訴訟の相手方とすべき占有者を訴訟前に固定し、その後、建物の占有が他の人に移転されたとしても、仮処分の執行時点の占有者に対する判決で、その後に占有を開始した者に対しても、強制執行を可能とするための手続きです。
占有移転禁止の仮処分は、債務者が不特定のままで申し立てることができます(民事保全法25条の2)。仮処分命令が出されると、執行官が現地の建物に臨場し、調査権限に基づき、債務者を特定し、建物内に公示書を貼ります。この時点で、部屋の占有者(入居者)の特定が完了することになります。入居者が確定した場合には、入居者に対しては、建物明渡訴訟を行うことになります。
弁護士費用については、弁護士によって異なってくるため、一律の基準をお伝えするのが難しいところです。賃貸借契約解除の理由、相手方の属性、採用する法的手続にもよるため、個別のオーダメイドのようなかたちでの対応になることが多いので、弁護士にお尋ね頂くのが良いと思います。
なお、占有移転禁止の仮処分を申立てる際には、仮処分命令の発令にあたって担保金を供託する必要があるため、その分の費用を準備する必要があります。
契約違反と信頼関係の破壊
本件事例では、無断転貸を理由として、賃貸借契約を解除するという話でしたが、賃貸借契約のような継続的契約の解除については、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと評価できるときに解除が認められるという、信頼関係破壊の法理が適用されます。軽微な契約違反では、解除できないという場合もありますので、解除については慎重に検討する必要があります。
無断転貸をしているということは、賃貸借契約に違反することにはなりますが、無断転貸があった場合に、直ちに信頼関係が破壊されると認定されるわけではありません。無断転貸の期間、頻度、交渉経過等の事情を踏まえて、信頼関係が破壊されたかが判断されます。
本件では明らかとなっていませんが、無断転貸の期間がどれくらいなのか、現在も継続しているのか・解消しているのか、契約違反状態の是正を求めたことに対して改善がなされたかといった事情も考慮の対象となります。無断転貸以外に、賃料滞納があれば、賃料滞納と無断転貸を併せれば、解除が認められる可能性が高いと思います。
前述のとおり、軽微な契約違反では解除が認められない可能性もありますので、現在の契約違反の状態で、賃貸借契約の解除が認められるケースかどうかは、専門家に相談するのが望ましいです。
賃貸借契約の期間中の契約解除ではなく、賃貸借契約の更新を拒絶して、退去を求めるということもあるかと思います。更新を拒絶するという場合には、借地借家法28条により、解約の申し入れに正当事由が必要となりますので、解約が認められるかは、賃貸借に関する従前の経過、利用状況、建物の現況、立退料の金額等によって、総合的に判断されます。正当事由があるかどうかについても、専門家に相談するのが望ましいです。