生前贈与とは、生きている間に、所有する財産を、引き継ぎたい相手に贈与する方法です。相続税対策に役立つことがありますが、名称は聞いたことがあっても、実施の方法やメリットがわからない方は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、生前贈与の概要やメリット、あらかじめ知っておきたい注意点などをまとめて紹介します。
1. なぜ相続税対策が必要なのか?
相続税とは、亡くなった親などから財産を引き継いだ場合に、財産の額が一定の額を上回ったときに発生する税金です。まずは、なぜ相続税対策が必要なのか解説します。
1.1. 人によって相続税の負担が大きくなるケースがあるため
相続税の税率は、一律で定められているものではありません。相続した遺産の金額に応じて10%~55%まで段階的に増えていきます。
相続税は最高額の「55%」が強調されがちですが、下記のようなケースでは税率が低くなる可能性があります。
- 相続する遺産が少ない場合
- 相続人が多く資産を分散できる場合
- 税額軽減が適用される配偶者が相続をする場合
相続税はケースに応じて負担が大きく異なるため、一概にはいえないことを念頭に置いておきましょう。
1.2. 相続税の負担が大きくなる理由は「税率の高さ」と「一括納付」
相続税の負担が大きいといわれる理由は、2つあります。1つ目は、税率の高さです。
下記の相続税の速算表を見るとわかるように、相続する財産が多ければ多いほど税率が高くなります。
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
参考:国税庁|相続税の税率
これに加えて、相続する法定相続人の数が少なければ少ないほど負担は大きくなります。
2つ目は、相続税は現金一括納付が原則という点です。被相続人が死亡した日から10ヵ月以内に一括で納付しなければならないため、金銭的な負担が大きいことがあります。しかも、この期間を過ぎると延滞税が加算されます。
1.3. 相続税の負担で困らないために対策が必要となる
相続税は原則現金で一括納付しなければならないため、納税資金の準備が必要です。相続財産がすべて預貯金であれば問題ありませんが、土地や建物など現金以外の財産であることが多いです。
土地や建物を売却して納税資金を確保すると、売却したときに所得税(譲渡所得)が発生することがあるため、手元に残る財産がどんどん減っていきます。
相続税を支払うために現在の財産や不動産を使用しなくてもいいように、あらかじめ対策を立てておくことが大切です。
2. 相続税の節税が可能な方法の1つ「生前贈与」とは?
相続税を抑えるために、被相続人が生前に相続財産を減らすことは非常に重要なことです。そのために、生前贈与が役立つことがあります。本項では、まず、生前贈与とは何かということと、基本的なしくみについて説明します。
2.1. 生前のうちに財産を引き継ぎたい相手に贈与すること
生前贈与とは、生きている間に、所有する財産を、引き継ぎたい相手に贈与することです。生前に贈与することで相続財産を減らし、相続税の負担を減らす効果が期待できます。
被相続人は財産を引き継ぎたい人に自ら渡すことができるため、親族間での遺産分割協議のトラブルを回避することに繋がります。また、生前贈与は双方でタイミングを決めて実行できるため、贈与の計画が立てやすいところもメリットです。
2.2. 実は贈与税よりも相続税のほうが税率が低い
生前贈与は、贈与税として課税されます。贈与税と相続税それぞれの税率を比較すると、基本的には贈与税のほうが税率が高いことがわかります。
ここでは、贈与税(暦年課税)と相続税を比較してみましょう。暦年課税とは贈与税の課税方法の1つで、1月1日から12月31日までの間に贈与された財産額に応じて課税されます。 1人あたり年間110万円の基礎控除額があり、控除額内であれば税金はかかりません。
基礎控除後の課税価格は、贈与税の速算表を使用し、以下の公式にあてはめて計算を行います。
贈与税額=(課税財産の評価額-基礎控除額(110万円))✕税率-控除額
贈与税の速算表は、「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に区分されます。
特例贈与財産 |
一般贈与財産 |
||||
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
- |
200万円以下 |
10% |
- |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
特例贈与財産とは、受贈者である18歳以上の者が贈与者である父母もしくは祖父母(いずれも直系尊属)から受けた財産のことをいいます。
一般贈与財産は未成年者(18歳未満)への贈与や兄弟間の贈与など、特例贈与財産に該当しない場合を指します。
特例贈与財産の税率の方が、一般贈与財産よりも低く設定されています。これは、直系尊属(父・祖父等)から直系卑属(子・孫等)に対する贈与は、それ以外の人への贈与よりも必要性が高いことが多く、かつ、自然なものだからです。
次に、相続税の速算表をご覧ください。贈与税の税率が、相続税の税率よりも高く設定されていることがわかります。
その理由は、生前贈与が相続税逃れのために使われることを防止するためです。
■相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
参考:国税庁|相続税の税率
2.3. 生前贈与の課税方法の非課税部分を利用することで相続税対策になる
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。基本は暦年課税ですが、一定の要件をみたせば相続時精算課税を選択できます。その場合、暦年課税は適用されません。
暦年課税であれば受贈者1人あたり年間110万円まで非課税枠を利用できます。これに対し、相続時精算課税であれば、受贈者1人あたり類型で2,500万円まで非課税枠が設定されています。
ここでは、暦年課税と相続時精算課税について解説していきます。
課税方法①:暦年課税
先ほども触れたように、暦年課税とは1月1日から12月31日までの間に贈与された財産の合計額に応じて課税される方式です。
1人あたり年間110万円の基礎控除があるところが特徴です。年間110万円を超えない範囲の贈与であれば申告する必要がありません。
ただし、年間での贈与が110万円を超えていないことを証明するために、贈与契約書や通帳で資金の流れがわかるようにしておかないと課税される場合があります。
贈与税の申告と納税は、原則贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに行います。また、期限までに納税できない場合、延滞税による追徴課税が発生するため注意が必要です。
課税方法②:相続時精算課税
相続時精算課税は、原則として贈与が行われた年の1月1日時点で60歳以上の親・祖父母が18歳以上の子・孫へ贈与する場合に選択できる課税方法です。受贈者が受け取った財産が合計2,500万円になるまで非課税となる制度です。
いったん相続時精算課税を選ぶと、暦年課税の適用は受けられなくなります。
2,500万円を超えた分の課税金額については、一律20%の贈与税がかかります。
そして、相続が発生した場合、相続時精算課税を利用した財産は「持ち戻し」になり相続税が課税されます。
2,500万円を超えた部分については、贈与税の額が相続税から差し引かれます。
また、最終的に支払う相続税額よりも納めた贈与税額のほうが多い場合は、多く納税した贈与税分の還付が受けられます。
3. 生前贈与には相続税対策に活用できる様々な特例もある
贈与税には暦年課税の年110万円の基礎控除と相続時精算課税以外に、複数の非課税特例があります。贈与税の非課税特例について解説していきます。
3.1. 子や孫への住宅購入資金の贈与
住宅取得資金の非課税特例とは、その年の1月1日時点で18歳以上になっている子や孫に住宅購入や増改築のための資金を贈与した場合、一定額までの贈与税が非課税になる制度です。
また、暦年課税の基礎控除(110万円)と併用することができ、仲介手数料などの諸費用を110万円の基礎控除に充てることも可能です。
さらに、住宅取得資金の非課税特例を利用した場合、3年以内に相続が発生しても、住宅取得資金は相続財産に加算されないため、相続対策として有効な制度です。
非課税特例を受ける場合は以下の条件を満たすことが必要です。
- 贈与を受けた年の受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること(家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
- 過去の確定申告で住宅取得等資金の非課税の適用を受けていないこと
- 配偶者や親などから家屋の取得をしていないこと
- 配偶者や親などから請負契約で新築や増改築を行ったものではないこと
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を当てること。また、受贈者が居住もしくは居住することが見込まれていること
- 家屋の登記簿上の床面積40㎡以上240㎡以下、かつ、家屋の床面積の2分の1以上が受贈者が居住していること
3.2. 配偶者への自宅の贈与
配偶者との婚姻期間が20年以上で、居住用不動産が配偶者へ贈与が行われた場合に最大で2,000万円まで非課税にできる制度です(配偶者控除)。
配偶者控除は暦年課税の基礎控除(110万円)と併用することができ、110万円を加算した2,110万円を非課税にできます。
ただし、受贈者は贈与を受けた3月15日までに贈与された居住用不動産に住み始めており、住み続けることが必要になります。また、贈与税の配偶者控除を利用する場合は税務署への申告が必要です。
3.3. 子や孫への結婚・子育て資金の贈与
贈与者である親や祖父母から受贈者である子や孫(18歳〜50歳未満)に結婚や子育てに必要な資金として贈与した場合、受贈者1人あたり最大1,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。
口座開設時に「結婚・子育て資金非課税申告書」を銀行などを経由して税務署に提出することで、贈与分は非課税として認められます。
たとえば、以下のような理由で資金を引き出したいときは、銀行などに結婚・子育て費用の領収書を提出する必要があります。
- 挙式費用
- 新居・引っ越し費用
- 妊娠時の諸費用
- 受贈者の子の医療費や保育費
なお、受贈者が50歳になった時点で口座に残高がある場合はすべてが贈与税の対象になります。また、非課税特例の利用中に相続が開始した場合は相続税の課税対象となります。
3.4. 子や孫への教育資金の一括贈与
贈与者である親や祖父母から受贈者である30歳未満の子や孫に、教育資金として贈与した場合、最大で1,500万円まで非課税になる制度です。
扶養者が家計から教育資金として捻出する行為は、この制度とは関係なく、扶養義務の履行として非課税となります。
これに対し、この制度は教育資金を前もって一括贈与しても贈与税が非課税になるものです。
受贈者は、銀行などで「教育資金口座」を開設し、贈与を受けたお金を預金しておきます。
そして、口座開設後、銀行などを経由して税務署に「教育資金非課税申告書」を提出することで贈与分は非課税として認められます。
教育資金口座から以下のような教育資金として引き出したいときは、銀行などに教育資金の領収書を提出する必要があります。
- 入学金、授業料、入園料、入学試験の検定料など
- 学用品の購入 、給食費、修学旅行費など
- 学習塾や習い事などの費用、そこで使用する物品の購入代
- 通学定期代、留学などの渡航費など交通費
ただし、以下の場合に残額があれば、贈与税が課せられます。
- 受贈者が30歳時点で学校に在学していない場合
- 受贈者が30歳以上で、銀行などに学校に在学していることを届け出なかった場合
- 受贈者が40歳に達した場合
- 受贈者が死亡した場合
4. 相続税対策以外にも3つの効果が見込める
生前贈与には、上述した相続税の節税の効果以外にもメリットがあります。本項では、3つのメリットを挙げて解説します。
相続税の節税以外の効果①:贈与相手の選択が可能
相続時は、相続人同士でのトラブルが起こりやすいです。たとえ遺言書があったとしても、遺言書の財産分割に納得がいかなかったり捉え方の違いが起こったりとスムーズに話が進むとは限りません。
生前贈与は贈与者が直接気持ちや贈与額を伝えて行うので、意見の相違が起こりにくいです。また、贈与者が本当に贈与をしたい相手を選び贈与の過程を見守ることができるため、贈与者の納得度の高い贈与を実施できるところもメリットだといえます。
相続税の節税以外の効果②:贈与時期の選択が可能
生前贈与は、贈与者が贈与する時期を自由に決めることができます。たとえば「子が住宅を購入するので頭金を援助したい」「孫が進学するので学費を援助したい」など、必要な資金をその都度贈与することが可能です。
また、 不動産や有価証券など価値の変動がある資産を保有している場合は、価値が上昇する前のタイミングを狙って贈与できます。この場合、特に相続時精算課税制度を活用するのがおすすめです。
将来的に財産の評価額が上がり支払うべき贈与税・相続税が増えることを防ぐ効果が期待できます。
相続税の節税以外の効果③:相続トラブルの回避
相続開始となった途端に遺産分割協議がまとまらず、財産が分割できない事態や調停などを行わなければならない場合があります。
遺言書を作成することもできますが死後についてあまり考えたくないなど、作成に抵抗感を持つ人も多いです。
生前贈与であれば、被相続人自ら相続財産を渡したい人に渡せます。相続トラブルの防止に繋がり、親族間における相続が円満に解決することが期待できます。
5. 相続よりも生前贈与が向いている人の特徴
生前贈与について理解したものの、自分の場合は生前贈与に向いているのか判断がつかない方もいるのではないでしょうか。生前贈与に向いている人の特徴について解説します。
特徴①:相続までに長い年月を見込める
贈与税は基本的に暦年課税であり、基礎控除の額は毎年110万円までなので、相続税に影響が出るほどの贈与を行う場合は長年にわたって贈与を行う必要があります。
しかも、相続の前3年以内の贈与については、基礎控除が受けられません。
したがって、比較的若く健康面で問題がなければ暦年贈与による非課税枠を最大限に活用できる可能性が高いですが、高齢の方が緊急的に行っても、十分にメリットを享受できない可能性があります。
特徴②:複数人に財産を贈与したい
生前贈与を活用すると、嫁や孫、子など複数の人に自由に財産を贈与できます。納得のできる配分ができるため、贈与者の満足度も高いといえます。
また、子や孫がたくさんいる場合、各人に毎年110万円の基礎控除の枠を計算に入れて効果的に贈与をするなど、贈与の方法を工夫することで、相続税の軽減にも効果的です。
特徴③:特定の人に財産を贈与したい
財産を特定の人に確実に渡したい場合にも、生前贈与は有効です。生前贈与であれば、特定の人に財産が渡ったことを贈与者本人が見届けられます。
特徴④:不動産や価値の高い財産を持っている
相続税の場合、相続財産は基本的に相続開始時点での評価を基準としています。財産価値が上がることを見越して、評価額が低いうちに相続時精算課税制度を利用して贈与を行うことで、相続税の節税につながります。
ただし、自宅の敷地や事業用の宅地、他人に賃貸している宅地については、相続時精算課税制度を使ってしまうと、宅地の相続税評価額が50%または80%抑えられる「小規模宅地等の特例」と併用できません。したがって、それらの土地に関しては、生前贈与を活用すべきでない場合があります。
特徴⑤:事業の経営者
経営者の場合、所有する自社株式や事業用不動産などが相続で分散することになれば、後継者が会社経営を存続させることが難しくなる可能性があります。
したがって、経営者が元気なうちに、自社株式等の後継者への移転(事業承継)を進めておくことが大切です。
特徴⑥:相続時に相続人同士のトラブルを懸念している
日ごろから親族間が不仲である場合、相続時に話し合いがつかず遺産分割することが困難になるおそれがあります。
事前に生前贈与を行うことにより、親族間におけるトラブルをある程度回避することができます。
6. 生前贈与の4つの注意点も知っておこう
本項では、生前贈与を相続税対策等に活用する場合の4つの注意点について解説します。
注意点①:贈与の実態がなければならない
生前贈与として各種特例を利用することが認められるかどうかは、最終的に税務署の判断によります。
受贈者が贈与を受けた財産を自分で管理していなければ、贈与の実態がなかったとして税務署から否認される恐れもあります。
贈与者と受贈者の双方が生前贈与したことを明らかにするためには、贈与契約書の作成や預金通帳への振込の記録など、贈与が行われたことを証拠として残しておきましょう。また、預金口座については、いわゆる「名義預金」ではなく、受贈者が自分自身で管理していることが必要です。
不安が残る場合は、専門家を交えて税務署に認められるような準備をしておくことをおすすめします。
注意点②:死亡前3年以内の贈与は相続税の対象になる
暦年課税の場合、贈与から3年以内に贈与者が死亡した場合は、相続財産に持ち戻しされます。
たとえば、贈与者が受贈者に対し長期間にわたって毎年、基礎控除額である110万円の贈与を行っていた場合、贈与者が死亡すればその前の3年以内に贈与された330万円は相続財産に含まれます。
注意点③:不動産の贈与には贈与税以外の費用がかかる
不動産を生前贈与する場合、贈与税の他に費用が発生します。相続税対策で贈与税の特例を使うはずが、余計な費用がかかってしまうこともあります。
贈与税以外の費用が発生するものは以下の通りです。
- 移転登記の登録免許税(固定資産税評価額×2%)
- 不動産取得税(固定資産税評価額×4%、同時期に宅地を取得した場合は固定資産税評価額が1/2になる特例もあり)
- 税理士や司法書士に依頼する場合の費用
その他の費用が発生する場合も考えられるため、ある程度の費用を準備しておく必要があります。
注意点④:遺留分侵害額請求をされるリスクもある
これは場合によってではありますが、受贈者が、相続開始後に他の法定相続人から遺留分侵害額請求を求められる可能性もあります。
このようなトラブルを事前に防ぐために、贈与財産を計算するときに、他の法定相続人に遺留分として確保すべき財産を確認しておく必要があります。
7. 生前贈与の契約等を行う際のポイント
本項では、生前贈与の契約等を行ううえでのポイントを解説します。
7.1. 現金手渡しは避ける
生前贈与で「現金手渡しすれば税務署にばれないのでは」といった考えを持つ方もいるかもしれませんが、そのようなことをすれば絶対に見つかります。
たとえば、贈与のために預金を引き出した場合、その口座に証拠が残るため、税務職員はその預金を「使途不明金」として調査します。
様々な角度から調査すれば、必ず贈与の事実が発覚し、贈与税の申告漏れとして追徴課税などのペナルティが課されます。また、脱税として刑事罰が下されることもあります。
さらに、生前贈与をしたという事実を形として残し、適切に処理をするためにも、現金の手渡しは避けたほうが無難です。
7.2. 贈与の証拠となる契約書を作成すること
贈与の証拠として贈与契約書を作成しておくと、税務調査が実施されても証拠として提示ができます。
贈与契約書は特に決められた内容はありませんが、以下の項目を記載しておくと、証拠としての信頼性が高まります。
- 贈与する日
- 贈与者・受贈者の氏名
- 贈与する財産
- 贈与する条件・方法
- 公証役場の確定日付
7.3. 名義預金は使わないこと
名義預金とは、口座名義人と実際管理している人が異なる口座のことをいいます。
子や孫に多額の預金を知られたくないなどの理由から、贈与者が生前から内緒で子・孫の名義の口座を開設し、資金移動しているケースがあります。
名義預金は名義人の財産ではないと判断されるので、将来的には相続税の対象となってしまいます。
7.4. 生前贈与の成立要件に注意すること
生前贈与が「贈与」として認められるためには2つの要件をみたさなければなりません。
- 贈与者と受贈者が「これは贈与である」ということをお互いが認識し、双方が合意をしていること
- 受贈者が贈与を受けた財産を自由に管理・利用・処分できること
たとえば、受贈者の手を煩わせたくないからといって、贈与後の財産管理を贈与者が行っていたりすると、贈与者の財産のままだと扱われ、相続時に相続税が課税されてしまうことがあります。
8. 相続税・生前贈与の法改正が行われる?
近年、与党・政府の税制改正大綱で、「相続税と贈与税の一体化」の方向性が示されています。そこで、今後の法改正等の見通しについて解説します。
8.1. 相続税と贈与税を一体化させる動きがある
「相続税と贈与税の一体化」とは、端的にいえば「贈与や相続で財産を渡しても最終的な税負担はいずれも同じにする」というものです。
これは、現行の制度が、贈与税の税率を高く設定する一方で、特定の生前贈与に限って非課税とする特例を設けているため、まとまった財産を所有する資産家に有利なものである一方、それ以外の人にとっては生前贈与をしにくくなっており、若年層への資産の移転が進んでいないという実態を問題視したものです。
2022年(令和4年度)の税制改正大綱では結果的に見送りになりました。しかし、上述の問題があることには変わりがないので、相続税と贈与税の一体化は近い将来に施行される可能性が高いといえます。
8.2. 今後改定が検討される相続税や生前贈与の内容とは?
2022年版の税制改正大綱では、相続税や贈与税に対する内容はあまり盛り込まれませんでした。しかし、以前よりも話題となっている税制であることから、今後以下の改正が想定されます。
8.2.1. 死亡前3年以内ではなく「5年以内」や「10年以内」の贈与が相続税の対象に?
現行制度では、贈与から3年以内に相続が開始された場合に、贈与された財産は「持ち戻し」となって相続財産として計算されますが、将来「5年」や「10年」に引き延ばすことが想定されます。
相続税として課税対象となる期間を引き延ばすことで、暦年課税の基礎控除(110万円)の利用に一定の歯止めをかけるための措置だと考えられます。
8.2.2. 年間110万円の控除が廃止に?
贈与税の暦年課税の基礎控除(年間110万円)がそれ自体廃止される可能性もあります。そうすると、毎年少しずつ生前贈与をしていく方法が使えなくなります。
8.2.3. 暦年課税よりも相続時精算課税がスタンダードに?
今まで贈与税は暦年課税と相続時精算課税を選択することができましたが、相続税と贈与税の一体化により相続時精算課税がスタンダードになる可能性が考えられます。
ただし、上述した問題意識からは、個々の制度をバラバラに改正または廃止するのではなく、現行のすべての制度を対象として、包括的かつ抜本的な改正が行われる可能性が高いと考えられます。
8.3. 現時点でできる対策をとる
相続税や贈与税の改正については今のところ予測に過ぎないため、二転三転することが考えられます。
また、改正が行われるとしても、段階的に施行されることも考えられます。現時点で相続の際に税負担や相続トラブルなどの問題が想定されるのであれば、現行の制度を前提として、早いうちから生前贈与を検討・準備することをおすすめします。
9. 生前贈与以外の相続税対策も検討しよう
ここまでは、生前贈与による相続税対策について説明しましたが、生前贈与以外にも相続税対策を行う方法があります。
代表的な相続対策として、生命保険を活用した相続税対策があります。生命保険は「みなし相続財産」として扱われ、原則として相続税の課税対象ですが、非課税枠があります。
非課税枠の計算式は以下のとおりです。
生命保険の死亡保険金等の非課税枠=500万円✕法定相続人数
この枠を利用した「一時払い終身保険」等の生命保険があります。これはごく大ざっぱにいえば、保険料の額と、本人が亡くなったときに支払われる死亡保険金の額が、ほぼ同額の生命保険です。
死亡保険金の非課税枠の分だけ保険料を支払って「一時払い終身保険」に加入することが考えられます。
以下の事例で、いくら課税されるか、計算してみましょう。
【事例】
- 被相続人:父
- 法定相続人:母・長男・長女・次男の4人
- 相続財産:5,000万
- 生命保険の死亡保険金:3,000万円(保険料3,000万円)
この場合、生命保険の死亡保険金の非課税枠は
500万円✕4人(法定相続人数)=2,000万円
ですので、
課税対象となる相続財産の額は、
5,000万円(相続財産)+{3,000万円(生命保険金)-2,000万円(生命保険金非課税枠)}=6,000万円
です。保険を使わない場合と比べ、相続財産の評価額が2,000万円低くなります。しかも、保険金を受け取った相続人は、それを相続税の納税資金に充てたり、他の相続人の遺留分を侵害した場合の補償金等に充てたりできます。
10. まとめ
相続税対策の有効な手段としての生前贈与について、どのような方法があるのか、メリット、注意点、実行するうえで押さえておきたいポイント等を解説してきました。
生前贈与は家族や親族、資産の状況によって異なり、複雑な手続きを要します。総合的に考える必要もあります。「こんなはずではなかった」という事態は避けるためにも、信頼性のある専門家に相談することをおすすめします。
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