通達で定められていない減価要因には鑑定評価が有効
ここまで鑑定についていろいろとご説明してきましたが、とはいえ、鑑定評価がすべてダメということではありません。
前述のように、通達では減額の規定はないが、土地の利用価値を下げる明らかな要因があるときは逆に使ってよいと思います。通達にもすべてのケースを盛り込むことはできませんから、含まれていないものもあるのです。
通達に盛り込まれていないものの一例として考えられるのは地中の埋設物です。
例えば土壌汚染があるような場合には、それを撤去しなければ売却は難しいでしょう。汚染物質がどのようなものかによっても、どの程度の深さまで土壌が汚染されているかによっても、撤去費用は変わります。
このようなケースは通達では決められませんから、不動産鑑定士に依頼して評価をするのは有効です。
通達が定めるのは、評価対象の土地のみの減価要因
また、通達の最も大きな弱点と考えられるのは、評価の対象となる土地のみに係る減価要因しか定められていないということです。その土地の周りの土地がどのような状況になっているのか、通達では考慮されていません。
例えば隣ががけになっているような場合、その土地を売却できるかといえば、難しいでしょう。神奈川県には「がけ条例」というものがあり、隣地でも斜度が30度以上のがけがある場合、保護工事が施されていなければ、その土地は危険なので建物の建築はできません。宅地としての売却は不可能ですが、通達にはそれらを考慮する規定がありません。
では、鑑定評価が認められた半分のケースのすべてが、通達に減額規定のないものだったかと言えばそうではありません。実際には、本当に鑑定評価を必要とする土地はごくわずかで、認められたものの多くは、通達にも減額の規定があり、通達どおり計算してよかった土地です。
それでも認められたのは、通達の評価額よりも高い鑑定評価を出しているからです。
どうしてこうなるかと言うと、通達の評価額は時価の8割を目安に算出されますので、同じ減価要因で減価していけば、鑑定評価のほうが高くなるのは当然です(注・鑑定士は正しい評価額を算出しています)。
不動産鑑定士への丸投げは避ける
それではなぜ、鑑定評価を使ってまで高い評価額で申告するのでしょうか。
これには理由があります。多くの税理士は通達の減額規定を十分に適用することができないので、正しい評価額がわかりません。鑑定評価が高いのかどうかも判断できないのです。結果、不動産鑑定士に依頼すれば安心だと、安易に考えてしまうのです。ですから、不動産鑑定士に依頼するのが有効なのは、通達に定められていない要因がある場合だけということになります。
通達で定められている範囲にしか減額の理由がない場合には、不動産鑑定士に依頼しても税務署に否認されるか、認められても適正な相続税評価額よりも高い評価額であることがほとんどです。土地の評価を不動産鑑定士任せにする税理士は避けましょう。高い鑑定費用が無駄になります。