「広大地」関連の矛盾が生じた裏事情とは?
前回ご紹介した「広大地」に対する通達の矛盾の例ですが、実は、そのようになってしまったのには裏事情があります。
平成15年までの広大地の評価は、実際に道路になる割合を算出し、その割合を奥行価格補正率とする評価方法でした。つまり、開発道路の割合や間口、不整地などは評価額に反映していたのです。ところが当時、この広大地の評価をする税理士はほとんどいなかったのです。
その理由は、「大変だから」です。
広大地の評価を適用受けるには、自治体が作成している、その地域の開発指導要綱を把握して、どのような宅地分譲になり道路がどれくらい必要か、図面を描き起こさなければならなかったのです。相続税の申告を依頼された税理士にそこまでできるはずはありません。結局、広大地を適用しないまま申告をして高額な相続税を支払う人が続出しました。
そこで、正しい評価額で申告しなければいけないと考えた税理士たちが動きだしました。相続税の申告を行った後で間違いに気づいたときには、更生の請求という方法で申告書を提出し直すことができます。期限は申告から5年以内です。
本来であれば広大地の適用を受けられる土地で適用せずに申告したため、高額な相続税を納めた人に向けて、更生の請求を勧めたのです。それにより、数千万円の税金の還付が受けられるケースも少なくありませんでした。
物納による「国の損」を回避しようとした結果・・・
それだけならまだしも、国税庁にとっても大変なことがあったのです。
相続税を現金で支払うことが困難な場合には、現金の代わりに土地などをそのまま納めてしまう方法があります。これを物納といいます。広大地を適用せずに評価した土地は高額になり、相続税額も高額になりました。結果、現金で納税できずに物納する人が続出したのです。
物納で受け取った土地は、国がそのまま保有していても仕方ありませんので、売却することになります。しかし、広大地の適用を受けずに高い評価額として物納された土地は、その評価額で売却することは困難です。大幅に価格を下げなければ売却できないという事態になったのです。
これでは国が損失を被ることになってしまいます。そのため、平成16年以降は広大地の評価が簡単にできるように仕組みを変え、かつ大幅に減価できるようにしました。形や奥行きなどは関係なく、広い土地であれば計算式に当てはめるだけで評価を下げることができるようになったのです。
過去の取引データを検証して、時価に近くなるように計算式に補正率が加えられていますが、個々の事情までは考慮できませんから、場合によっては不利なケースも出てしまいます。