国税審判官が出した「非現実的」な審判
今回は、広大地評価の適用がますます厳しくなっていることを示す裁決についてご紹介します。こちらを見ると、国税審判官が広大地の評価を否認する傾向があるのがよくわかると思います。
東京郊外の土地で広大地の評価が国税審判官に否認された例です。その土地は、895・86平方メートルの面積で図表のように奥行きが長く、いびつな形状でした。
分譲するには道路を設けなければなりませんから、広大地の評価を適用したのです。それに対して、国税審判官は図表1の下図のような図面を描いてきました。土地を五つに分割し、旗ざお地にすれば、道路を設けなくても売却できるというのです。
しかし、奥の土地に通じる通路は30から40メートルにも及びました。そんな土地が売れるでしょうか。不動産会社の人であれば誰でも首をかしげそうな非現実的な図面です。ところが、国税審判官は「通路部分の面積が宅地部分として計算できるのだから、建ぺい率や容積率の面で有利になる。通路部分には何台も車を駐車できるのだからそれもメリットである」と判断したようです。
車を縦列に駐車した場合、奥に駐車した車を出すためには、入り口の車をいったん道路に出して入れ替えなければいけませんが、この土地は幹線道路に面しており、交通量が多く実際にはあり得ない話でした。不動産に詳しくない国税審判官は、机上の考えだけでこのような審判を下してしまったのです。
本当に「不動産会社との契約は形式的なもの」なのか?
最近ではこんな例もありました。図表2のような土地にアパートが3棟建っていました。所有者はこの3棟をまとめて不動産会社に貸し、不動産会社は転貸をしていたのです。
このように一括契約をしている場合には、一つの土地として評価することになっています。これは通達にも明記されています。評価の区分の方法は、書籍『相続税から土地を守る生前対策』の第5章にも詳しく記載していますが、評価は利用の単位ごとに行いますから、一括で賃貸契約が結ばれていれば、土地も一体評価をするのが原則です。
ところが国税審判官はこう判断したのです。
「不動産会社との契約は形式的なもので、実態は所有者が直接、個々の居住者に賃貸しているのと変わらない」
よって、土地は三つに分割するのが正しいというのです。結局、広大地の評価は否認され、高い評価になってしまいました。課税の公平性を保つために通達で評価単位を規定しているのですが、それを否定するような裁決であると筆者は感じています。これでは税理士も広大地評価の適用に及び腰になってしまいます。
今後ますます、広大地の評価を適用しないで申告するケースが増えるでしょう。
市街化調整区域の農地にも「矛盾」がある
市街化調整区域の農地にも、評価をする上で矛盾を感じることが少なくありません。市街化調整区域の評価は固定資産税評価額に倍率を乗じて評価額を計算します。
例えば、田んぼ1反の固定資産税評価額が8万円のところがありました。倍率が40倍であれば、8万円×40倍=320万円が相続税評価額になります。だいたい、田んぼの評価額はこのくらいです。
では、田んぼ1反でどのくらいのコメが生産できるでしょうか。農家の方に聞いたところ、年間8俵くらいとのことでした。コメ1俵当たりの買い取り価格は1・5万円程度ですから、8俵なら年間収入は12万円になります。
ということは、10年で120万円、20年で240万円にしかなりません。相続税評価額の基本は時価でした。時価とは売却できる価格です。20年がんばっても240万円しか収入が得られない田んぼが320万円で売れるでしょうか。
実は、市街化調整区域の農地は売買事例が少なく、実際に成立した価格にも幅があるのですが、おおむね150万〜200万円が市場価格となっています。通達で定められている現在の倍率は、昔の田んぼが高く売れた時代の倍率がそのままになっていると考えられ、これも通達が追い付いていないと感じる評価です。