(※写真はイメージです/PIXTA)

商品の質にこだわり、お客様によいものを届けたいという思いで会社を経営してきた菓子製造会社社長。社会貢献への気概からしっかり法人税も払って経営を続けてきましたが、75歳となったのを区切りに、来年は第一線から退き、次世代への承継を考えています。本格的に承継への準備に着手しましたが、気がかりなのは税理士からも指摘を受けた家族への税負担です。社長とコンサルタントのやり取りを通じ、社長の自社株の信託を検討したケースを紹介します。

解決法がないか、税理士に聞いてみた

上記のような心配から、稲垣社長は、税理士にあれこれと質問してみました。

 

税理士は「確かに心配ですね…」と言いながら、以下のよう稲垣社長へ説明を行いました。

 

【説明その1】自社株の評価額について

 

まず、自社株の評価額についてですが、来年、社長に役員退職金を支払うことで、株価は下がることになると思います。いくらになるかは再度試算してみる必要がありますが、株価は昨年に試算した額から変わります。自社株承継の一般的な対策として、社長が引退して退職金を得て、株価が下がったときを利用して自社株を後継者に贈与する人もいます。

 

【説明その2】後継者に自社株を毎年贈与していく方法について

 

社長の引退時にすべての自社株を後継者に贈与しなくても、今から、後継者に毎年贈与していく方法も有効です。しかし、この毎年贈与することについては、今後、法律改正の方向で議論されています。現在の法律では、相続が発生したときから3年間さかのぼりその間に贈与したものを、相続時に持ち戻して相続税を計算します。法律を改正して、この期間をさらに長くするのではと言われています。

 

【説明その3】贈与による後継者以外の相続人の「遺留分の侵害」について

 

また、贈与は相続税だけの問題でもなく、後継者以外の相続人の遺留分の侵害についてその額を計算することにも関係します。現在の民法では、社長の相続がおきた時点から10年間さかのぼりその間に贈与した財産は、相続財産に持ち戻して計算することになっています。

自社株承継に一番よい方法を、税理士に聞いてみた

税理士の説明を聞き、稲垣社長は(生前贈与の利用も今後はその効果が少なくなる可能性があるのか…)と思いながら、税理士に「自社株承継に一番よい方法を指導してほしい」と頼みました。

 

その依頼を聞き、税理士はさらに「自社株を譲渡する方法」について説明を続けました。

 

【説明その4】後継者が出資して新たに設立した法人へ、社長が自社株を譲渡

 

例えば、後継者が出資して新たに法人を設立し、その法人に稲垣社長が自社株を譲渡する方法です。後継者が株主の会社が稲垣社長の株式を買うため、それ以降、会社の株主は後継者の会社となります。

 

その会社の株式は後継者がすべて持つため、後継者が御社を支配することになります。自社株を譲渡したことで、稲垣社長には所得税が課税されます。株式の譲渡は他の所得とは別に課税されます(分離課税)。税率は復興税も含めて20.315% です。

 

【説明その5】同族間の株式譲渡に関する注意点

 

株式の譲渡価格は、稲垣社長と後継者の会社とが合意して金額を決めればよいのですが、同族間の譲渡は低額譲渡にならないように気をつける必要があります。低額で譲渡するとみなし贈与課税(株式を取得した法人に課税)やみなし譲渡の課税(稲垣社等に課税)が発生することになります。低額譲渡とならないような株価で譲渡することが必要です。

 

【説明その6】後継者の会社の資金負担に関する注意点

 

また、後継者の会社の資金負担が大きいので、資金調達が必要となります。一般的には金融機関から融資を受け、買った株式の配当などで返済していきます。返済に高額な配当が必要となれば、事業を行っている会社の資金の負担が重くなります。配当を優先したら、新たな商品を開発するための投資を抑制する必要も生じるかもしれないため、注意が必要です。

 

結局、どの方法も一長一短というわけです。

 

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