集めた資料を使って遺産を取り戻すための手続きを行う
使い込みの証拠が集まったら、遺産を取り戻すための手続きに移ります。ほとんどのケースでは、当事者同士で話し合うか、裁判手続きに持ち込むかのどちらかです。
当事者同士で解決するための方法について話し合う
まずは、相続人同士で話し合ってみましょう。当事者同士で解決できるなら、今後の親族関係に及ぶ影響を最小限に抑えられます。具体的には、以下のように話し合いを進めます。
【話し合いの進め方の例】
STEP1:使い込みが疑われる当人に、使い込みの事実がないかを尋ねる
STEP2:否定するなら、集めた証拠を見せ、事実関係について1つひとつ尋ねる
STEP3:それでも否定するなら、弁護士に相談して裁判も考えていると伝える
※この時、使い込んでいると決めつけて尋ねると、態度が頑なになることがあるので注意
※証拠をどの順番で見せ、どんな質問をするか事前に良くシュミレーションしておきましょう
使い込みを認めて話し合いがまとまれば、遺産分割協議書を作成しましょう。使い込んだ額も含めて財産を分配することで、実質的に使い込まれた遺産を取り戻せます。
使い込みをしている当人が、それほど悪いことをしていないと思い込んでいることもあります。「自分は他の親族よりも被相続人の介護や身の周りの世話をしてきたのだから、少しくらい使ってもよいではないか」といった具合です。そのとき、面と向かって「返金しろ」と責め立てると、相手方の態度がますます頑なになるかもしれません。
このケースでは、弁護士に相談し、話し合いをまとめてもらうことを検討しましょう。第三者が入ったことで冷静になり、話し合いが前に進むことはよくあります。
【遺産分割調停では解決するのは難しい】
遺産の使い込みを解決するのは、遺産分割調停でも困難です。遺産分割調停は遺産の範囲が決まっていることが前提条件となっています。使い込みの場合は、遺産が全体でどれ位あったのかが不明なので、調停に持ち込めません。そのため、話し合いがうまくいかなかったときは、通常、裁判手続きに移行します。
当事者同士の話し合いで解決できないときは裁判手続きに移行
民事訴訟では、裁判を起こす側が証拠を提出し、納得できる主張であることを裁判所に認めてもらう必要があります。裁判手続きは複雑なので、自分の力だけで行なうことは困難です。そのため、通常は弁護士に依頼します。
遺産の使い込みの場合、訴訟の仕方は大きく分けて2種類。「不当利得返還請求」と「不法行為による損害賠償請求」という方法があります。
◆不当利得返還請求で使い込まれた財産を返すよう要求できる
遺産を使い込んだ相続人は、本来もらうはずのない不当な利益を得ています。そのことを理由に、財産の返還を求めることができます。これが、不当利得返還請求訴訟です。請求できる金額は、基本的に法定相続分が上限となります。不当利得返還請求は、自分が得るはずだった分(法定相続分)の利益を取り戻す手続きです。そのため、不法行為による損害賠償に比べて、賠償額は少なくなる可能性があります。
不当利得の返還義務(民法第703条)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
◆不法行為を理由に損害賠償請求を提起することもできる
遺産の使い込みによって他の相続人に損害を負わせたことを理由に、損害賠償を請求することもできます。これが、不法行為にもとづく損害賠償請求です。精神的損害を与えられたことを理由に慰謝料を請求することも可能。また、弁護士費用の請求が認められるケースもあります。
不法行為による損害賠償(民法第709条)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
【時効によって請求が認められないことがある】
裁判手続きを起こしたとしても、時効によって請求が認められないこともあります。不当利得返還請求は、使い込みの事実があった時点から10年で時効です。ただし、使い込みの事実を知っていたときは5年で時効となります。一方、不法行為による損害賠償請求は、損害及び加害者を知った時点から3年です。
使い込みがあったのは10年以上前で、最近その事実を知ったとします。時効により不当利得返還請求は認められませんが、不法行為による損害賠償請求を提起すれば、遺産を取り戻せる可能性があります。
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