強みを認識するには「知的資産の棚卸し」が効果的
強みについて正しい認識を得るには、どうしたらよいのでしょうか。
ここでは、強みを多角的に捉える材料として、知的資産について説明します。
会社の経営資源となる資産は、財務諸表に表れる「目に見える資産」と「目に見えない資産」に分けられます。後者の「目に見えない資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等を指します。これは知的資産と呼ばれ、「強みの源泉」となるものです。知的資産は下記の3つに分類することができます。
強みを正しく認識するためには、この観点を活用して、知的資産を棚卸しすることが効果的です。
棚卸においては、経営者個人の認識に委ねるのではなく、経営者以外の観点を含めて行うことが重要です。人は、自己の経験や知識などをベースに判断しますが、そこには自分で気づかない偏見やゆがみが潜んでいたりします。また、自分が長年やっていて「当たり前なこと」には、改めて注目しない傾向があります。そういったことを排除するため、社員はもちろん、自社に対して客観的にアドバイスできる人(商工会議所などの関係者、中小企業診断士など)に入ってもらうのです。
棚卸では、会社の沿革、業務の流れ、部門の特徴等をにらみながら、多角的な視点を持って、潜在的な可能性まで含めて議論、検討することが良いでしょう。
チャレンジする組織風土が、未来を切り開く力を養う
水野由香里教授(当時・西武文理大学)は、著書「小規模組織の特性を活かす イノベーションのマネジメント」(碩学舎)において、100を超える「ものづくり中小企業」経営者へのインタビューなどを通して得られた、イノベーションを実行する組織における共通の類似点を挙げています。
まず、内部マネジメントに関する基本的姿勢・組織特性として、「本業で利益が出ているうちに次の事業の柱を探す」「チャンスをつかむ経営者の意識」「挑戦し続ける組織風土」などを挙げています。また、行動規範として「要望や問い合わせに対して断らない姿勢」、「技術を可視化した部品や製品を営業ツールとして持っていること」などを挙げています。
ここでは関連する事例として、筆者が以前に支援した企業を紹介します。
(株)横引SR(東京都葛飾区、従業員18名、資本金500万円)は、横引きや水平引きのシャッター、門扉を設計・製造・販売する会社です。
この会社の特徴は、「顧客の要望に応じて、常識では考えられないシャッターの開発にチャレンジし、実現していること」です。例として、「世界最長の横引シャッター」など、ギネス記録の保有が挙げられます。
ギネス記録の横引シャッターは、福島県須賀川市役所に設置されたシャッターであり、長さ53.737メートルと、何とも気が遠くなる長さです。メリットは、その間に柱を設ける必要がなく、市役所のスペースを有効活用できることです。
イノベーションの実現には、理由があります。この会社では、市川慎太郎社長のリーダーシップのもと、「挑戦し続ける組織風土」が醸成されているのです。
具体的には、顧客に対して「他社でできなかったこと、できないことの相談」を積極的に受け付けているうえ、社内で「できない」を禁止語にして業務に取り組んでいます。そして、あらゆる角度からアイデア創出、開発、遂には実現に至ることを繰り返しているのです。
この「顧客要望を断らないこと」によれば、技術面で、簡単にあきらめていたら得られなかったであろう、知見を得ることができます。顧客面では、要望に対して100点満点ではないとしても、80点を取れば信頼度はぐっと増し、口コミにつながるでしょう。また、顧客が新しい課題を見つけた際に「あの会社なら何とかしてくれる」と次の注文につながる可能性を生みます。
ここで、知的資産の観点から考えるとどうなるでしょうか。
もともとこの会社は、「チャレンジする組織風土」という構造資産を有していたのですが、実際の行動によって、次のような資産を活用・育成しています。
●構造資産:技術データ、組織風土
●人的資産:モチベーション、スキル
●関係資産:顧客の信頼
「チャレンジする組織風土」によれば、既存の知的資産活用だけでなく、他の知的資産などを強化・育成することができます。イノベーションはもちろんのこと、将来を切り拓くことにつながっていくのです。
五藤 宏史
五藤コンサルティングオフィス 代表
中小企業診断士
事業承継支援コンサルティング研究会