中小企業は「新規事業の探索」にまで手が回りにくく…
両利きの経営では、既存事業の「深化」とともに、新規事業の「探索」を行うことが重要です。しかし、大企業のようにヒト・モノ・カネといった豊富な経営資源を持たない中小企業は、既存事業の深化だけで手いっぱいであり、新規事業の探索にまでは手が回りにくいのが実情です。
しかし、2021年度版の『中小企業白書』の調査結果によれば、中小企業が経営危機を乗り越えるうえで最も重要だった取り組みの1位は「新規事業分野への進出、事業の多角化」でした。
中小企業の場合、会社をあげて新規授業の探索に乗り出すのは簡単ではありませんが、経営者自らが探索を行うことでチャンスを掴むことは可能です。
地方創生に関わってきた、日本生産性本部地方創生カレッジ総括プロデューサーの三輪知生氏の著書『岐阜発 イノベーション前夜』のなかに、実践的な事例と、チャレンジのヒントがありました。
STEP1:時代の変化を前向きにとらえ、チャンスを掴む
●寝具店の事例…「消費者のライフスタイルの変化」を受け入れ、創意工夫を凝らす
布団を主力商品として事業を営んできた寝具店は、布団からベッドへと消費者のライフスタイルが変化したことで経営難に陥りました。しかし経営者は、これまでの事業内容に限界を感じたものの、前向きな姿勢を失いませんでした。「消費者のライフスタイルの変化」という現実を受け入れ、その中で自分は何をなすべきか、ひたすら前向きに考えたのです。その結果、この寝具店は、最終的に自社のオリジナルベッドを作ることに成功し、復活を果たしました。
新規事業の創出に成功した経営者は、厳しい経営状況の中にあっても、前向きな姿勢でこれから進むべき道を考えます。「ピンチをチャンスに変える」という言葉がありますが、ピンチの時こそ大きく転換するチャンスだと捉えてみてください。結果的にそのピンチがターニングポイントとなり、次なる大きな成功につながることもあるのです。
STEP2:「本当にやりたいことはなにか」を明確にする
●スーパーマーケットの事例…従来とは異なる方向性のビジネスで成功
あるスーパーマーケットは、近隣に進出してきた大手スーパーとの価格競争の中で値下げを繰り返し、経営難に陥ってしまいました。いったんは廃業しようと決めたものの、経営者は「自分が本当にやりたかったことが何だったのか」を、あらためて考え直しました。そこで、「夢に向かってがんばる人たちを応援する」ことが、自分のやりたかったことだという気づきを得ました。それにより、新規出店者を応援する「屋台村」という新規事業を立ち上げ、成功しました。
新規事業の創出に成功した経営者は、ステップ1のように、まずは「前向き」な気持ちを持ち、そこから「そもそも自分は何をしたくて事業を営んでいるのか」「事業を通じて将来どのような夢を実現したいのか」について、あらためて真剣に考えています。やみくもに新規事業へ手を出すのではなく、まずは、自分の夢や長年漠然と思い描いていた「本当にやりたいこと」を明確にしてみましょう。
STEP3:多くの人と話し、気づきや洞察を得る
●和紙の卸問屋の事例…通訳との会話が、想像の及ばなかった商品開発のヒントに
ある和紙の卸問屋の経営者は、需要が低迷する和紙の新しい使い道を探るべく、国内はもとより、海外各国の展示会にも積極的に足を運んでいました。あるとき、たまたま同行していた通訳から「海外のクリスマスでは、窓ガラスや室内をオーナメントで飾るが、それを和紙で作ったらどうか」というアイデアをもらい、それが新規事業の創出につながりました。
新規事業の創出に成功した経営者は、ステップ2で考えた「本当にやりたいこと」を実現するために、自分ひとりで考えるのではなく、多くの人に会いに行って自分の夢について話をしています。多くの人と話すことで、
①自分の夢が徐々に明確になって確信が持てるようになる
②夢を実現するためのアイデアが得られる
③一緒に夢を実現してくれる協力者に出会える
といったメリットがあります。人はそれぞれ、知識も経験値も考え方も違います。話す人の数だけアイデアがあるのです。