(※画像はイメージです/PIXTA)

国税庁は、2022年8月1日、所得税に関する通達の改定案を公表し、サラリーマンの副業による収入について、収入300万円以下は原則として「事業所得」と認めず「雑所得」と扱う方針を打ち出しました。そのことが何を意味するのか、どのような問題点があるのか、検証します。

税法の趣旨に反する可能性?

第一に、そもそも法律の趣旨に反する可能性があるという指摘が考えられます。

 

上述の通り、国税庁のねらいは、事業所得という所得類型を利用した無理筋な節税の動きを封じる点にあります。

 

しかし、現時点でも、事業所得にあたるかどうかの基準はある程度厳格なものとなっているので、そういった無理筋な節税方法の多くは「そもそも事業にあたらない」とされる可能性が高いといえます。

 

すなわち、「事業所得」の定義については最高裁の判例があり、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」とされています(最判昭和56年4月24日)。

 

この定義からすれば、そもそも、ことさらに節税だけを意図した刹那的な経済活動が「事業」と評価される余地がどれほどあるのか、考えてみる必要があります。

 

また、事業のために払う労力の大小と収入金額の大小は必ずしも正比例するものではありません。

 

したがって、無理筋な節税を抑止するために「収入金額300万円超」という基準を重視することが法の趣旨にかなっているかどうか、いかに「反証」が許されるとはいえ、過度の規制になるおそれはないか、合理性につき慎重な検討が必要だと考えられます。

副業全般に萎縮効果が及ぶ可能性がある

第二に、サラリーマンが副業によって所得を増やそうとする努力に対し、萎縮効果を及ぼす可能性があります。

 

そもそも、損益通算は、もともと広く認められるべきとされていたものが、所得ごとにその必要性が吟味されることによって、現在の形に落ち着いたものです。

 

また、雑所得について他の所得との損益通算を認めない趣旨について、国税庁HPでは以下のように解説されています(「損益通算制度について―タックス・シェルターへの対応を含めて―」)。

 

・雑所得は全体的にみて必要経費がほとんどかからないか、またはかかっても収入を上回ることのないものが大部分であり、損益通算の実益がない

・ある程度支出を伴うものについても、その支出内容に家事関連費的な支出が多いのが実情である

 

これらのことに鑑みれば、「売上300万円」という数字を重視して事業所得と雑所得を区別することは困難であり、合理性に疑問があります。

 

すなわち、どのような事業も、最初はサラリーマンの「副業」として始まることが多いのです。

 

また、特にスタートアップの時期は、売り上げが思うように上がらないケースがきわめて多いと考えられます。そもそも、副業で最初から年300万円を超える売上を計上できる人がどれだけいるのか、疑問です。

 

しかも、初期投資額や費用が大きくなりがちです。そういう場合には、損益通算や青色申告による特典を受けられるようにしないと酷です。

 

そのような場合も、事業所得と認められるために「反証」を要求するという扱いは、真摯に副業に取り組もうとするサラリーマンの努力、新たに事業を立ち上げようとする動きに水をさし、取り返しのつかない萎縮効果をもたらすおそれがあります。

資産家ほど得をする可能性がある?

第三に、資産家ほど得をする可能性があるということです。

 

これは2つの側面があります。

 

まず、一般に、もともと十分な財力を持っている人ほど、初期投資を大きくすることができ、その分、最初から年300万円を超える売上を計上できる可能性が高いといえます。したがって、一般のサラリーマンに不利益を与える半面、資産家を利することになる可能性があります。

 

次に、こちらのほうがより重要なのですが、副業で不動産投資を行う場合の「不動産所得」だけをことさら優遇する結果になりはしないかということです。

 

「不動産所得」は、不動産の貸付により得られる所得で、賃料収入等がこれにあたります。

 

特にいわゆる「5棟10室」基準をみたす場合は、損益通算が可能なのに加え、青色申告の特典も受けられます。

 

しかも、中古不動産に投資をすれば、建物について短期のうちに減価償却費を計上できることがあるので、より節税メリットを享受しやすくなります。

 

つまり、不動産投資をして収益を上げる人は、依然として節税メリットを享受し続けることができます。

 

このように、今回の国税庁の通達改定案については、無理筋な節税を封じようとする目的の正当性はある程度理解できるものの、副作用が大きくなるリスクがあります。

 

「収入金額300万円」を強調する以外の方法がないか、所得税法本来の趣旨に立ち返って、慎重に検討することが望まれます。

 

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