グーグル社が学歴を重視するワケ
筆者の経験をここで紹介しよう。海外の会議中に若者が必死にパソコンに向い何かを打ち込み、会議が終わると同時にその議事録を配布した。
後で聞いたところ彼は博士課程の学生で、エンジニアリングの教育の一環で会議に出席させているとのことであった。実務的な教育にも配慮しているとの印象を強くした。
博士号(PhD)取得者を好んで採用するグーグルは、学歴を重視する理由として、「アカデミックな世界で好成績を残した人間は、高い学習能力と分析能力と地頭の良さが備わっている」と評価している。
グーグルの創業者のラリー・ページとサーゲイ・プリン自身、スタンフォードのコンピューターサイエンス博士課程で過ごしたし、2011年4月までCEOであったエリック・シュミットもUCバークレーで博士号を取得している。
ほかの経営陣も「学歴集めが趣味ではないか」と思われるぐらいピカピカの学位学歴をもった人ばかりが集められている。
このように、欧米では博士学位取得者が政府中枢や民間企業に要職を得て活躍しているのに反して、わが国では博士学位取得者の民間企業等への就職は少なく、企業側が歓迎する「使いやすい学生」として修士学生の就職が有利となって久しい。
このことが理工系学部で大学院(修士課程)進学率の増加に繋がってきたが、この便利さに対して「使いにくい学生」として博士学位取得者を避ける傾向が続いてきた。
今後は、企業に所属しながら博士課程で研究を継続するリカレント学生の増強、産学連携の一環としての在職しながら博士課程進学など、社会人博士課程学生の受け入れが、より活性化されることが望ましい。
米国の大学は博士課程に限らず学生に高度な学力をつけようとする対応が極めて丁寧である。
筆者の後輩で、企業からマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学後、MITの教授になったA氏は
「早大とMITから寄付の要請が来るが、どちらの大学に世話になったかと思い返してみると、圧倒的にMITであり、まず寄付はMITにしたい」
と語っていた。米国の大学は寄付の収入が圧倒的に多いと言われているのも、このような大学の面倒見の良さが背景にある。
一方、大隅博士も
「大学も意識を変えないといけない。企業でも活躍できる高度な人材を育てる体制を整える必要がある」
とも語っている。
「世間を知らない教員の指導のもと、常識のない研究者・社会人を生み出している」
との指摘でもある。
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浅川 基男
1943年9月 東京生まれ
1962年3月 都立小石川高校卒業
1968年3月 早稲田大学理工学研究科機械工学専攻修了
1968年4月 住友金属工業株式会社入社
1980年5月 工学博士
1981年5月 大河内記念技術賞
1996年4月 早稲田大学理工学部機械工学科教授
2000年4月 慶應義塾大学機械工学科非常勤講師
2002年4月 米国リーハイ大学・独アーヘン工科大学訪問研究員
2003年5月 日本塑性加工学会 フェロー
2004年5月 日本機械学会 フェロー
2014年3月 早稲田大学退職、名誉教授
著書:基礎機械材料(コロナ社)ほか