「一戸建てを売って住み替えたい」高齢男性の真意は…
先日、一戸建ての持ち家を売って住み替えたいと言う高齢男性にお会いしました。その理由を尋ねると、
「妻との思い出がたくさんある家にいると、毎日、悲しみが湧いてきてつらい。気持ちを切り替えるために違うところに住みたい」
とおっしゃいました。そして東京にお住いのお子さんには「庭の掃除が大変だから引っ越すことにした」とだけ言っているそうです。
私とは少し違いますが、ここにも親のことを知らない子どもがいるということです。親子の対話による相互理解の前に、そもそも高齢者と次世代では高齢期に対する認識のギャップがかなりあります。
[図表1]は、「老いの工学研究所」で、「高齢期に心配なこと、恐れを感じるもの」について調査した結果です。
65歳以上:102人、65歳未満:144人に、20項目の中から複数回答可で選んでもらったところ、高齢者と次世代では、高齢期に対する認識が大きく異なっていることが分かりました。
「高齢期に心配なこと、恐れを感じるもの」について、「身体能力の衰え」「認知症」「家の周辺環境」「大きな病気やケガ」は、65歳未満も65歳以上も共通して上位に挙げています。
一方で、65歳未満では上位にあり、65歳以上で順位が低いのは、「やることがない状況」「蓄えの少なさ」「孤独や寂しさ」「年金の受給額」でした。
若い世代は、時間や能力を持て余すことや金銭的な問題、孤独感を心配していますが、65歳以上の人たちにとってそれらは大した心配事ではない。そのギャップは、20~30%の大差になっています。
おおざっぱに言えば、若い世代は、高齢者は身体は衰えるし、お金には困るし、孤独でやることもないんじゃないかと思っているけれど、それは的外れの想像に過ぎないということです。
現代は、親子の踏み込んだ対話の機会が減っているし、それ以前に高齢期に関する認識のギャップ(高齢者の実感と、それに対する子ども世代の無理解)がとても大きくなっています。
このギャップが高齢者が幸福に向かっていこうとする行動を制限する要因になっているとすれば、この解消は非常に重要な問題と言えるでしょう。