1970年に「生命科学」という分野の創出に関与し、早稲田大学、大阪大学で教鞭をとった理学博士の中村桂子氏。生物を知るには構造や機能を解明するだけでなく、その歴史と関係を調べる必要があるとして「生命誌」という新分野を創りました。そして、「歴史的文脈」「文明との相互関係」も見つめ、科学の枠に収まらない知見で生命を広く総合的に論じてきました。科学者である彼女が、年齢を重ねた今こそ正面から向き合える「人間はどういう生き物か」「人として生きるとは」への答えを、著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)として発表。自身が敬愛する各界の著名人たちの名言を交えつつ、穏やかに語りかける本書から、現代人の明日へのヒントとなり得る言葉を紹介します。
国家主席でありながら、月1,000ドルで暮らす日々
私がムヒカ大統領を知ったのは、一緒に仕事をしていたイラストレーターが、こんなのつくりましたと言って見せてくれた『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』(汐文社)という絵本を通してでした。
絵本の主人公が、2010年3月から5年間ウルグアイの大統領であり、先ほど紹介したスピーチを行ったホセ・ムヒカさんだったのです。ムヒカさんは、月1,000ドル、つまり10万円ほどで暮らしているのだそうです。
ウルグアイの物価は知りませんが、いくら小さな国だからと言って、大統領が月10万で暮らしているなんて考えられませんが、とても楽しい日々のようです。
ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダーノという長い名前のこの方、1935年生まれとのことですので、私とまったく同世代です。国は違っても子ども時代を第二次大戦が行われていた世界の中で過ごしたことなど、同世代であるとどこかに共通点が見出せるものです。
「貧しさ」はその一つです。誰が貧しいというのでなく、社会全体が貧しいという体験です。
中村 桂子
理学博士
JT生命誌研究館 名誉館長
JT生命誌研究館
名誉館長
1936年東京生まれ。JT生命誌研究館名誉館長。理学博士。東京大学大学院生物化学科修了。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、独自の「生命誌」を構想。1993年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。『生命誌とは何か』(講談社)『生命科学者ノート』(岩波書店)『自己創出する生命』(ちくま学芸文庫)『中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)』(藤原書店)など著書多数。
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連載「生命科学」の第一人者が、「老い」の愛し方を伝授!