「一人でいること」=「孤独」ではない
孤独は現代社会の大きな問題です。高齢者についても、孤独は心身の衰えを加速しやすく、助けが得にくいために体調急変時に放置されたり、孤独死につながったりする危険もあり、その解消は喫緊の課題となっています。「高齢期の幸福」を考えるにあたって、孤独の問題は避けては通れません。
しかしながら、孤独を単に「一人でいること」と捉え、一人でいる人は全て「孤独」とみなして助けるべきかというと、そんなに単純な話ではありません。
いつも一人で街に出て絵を描いている人、いつも一人で本を読んでいる人が、決して絵画サークルに入れなかった、読書サークルから除け者にされたというわけではありません。
高齢期になって幸福感が上昇する(※)のは、嫌な人と付き合ったり、気の進まない場に出て行ったりしなくていいからだ(離脱説)と考えると、一人でいる人を無理に交流の場に連れていくのは、ストレスになりかねません。
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※「加齢のパラドクス」という言葉があります。高齢期には身体の機能や容貌などが衰えていき、また、様々な喪失(職業、収入、配偶者、友人、子の独立など)を経験するため、普通に(特に若い人の視点で)考えれば、徐々に幸福感が低下していくはずなのに、実際には高齢者の幸福感はだんだんと上昇していくという、一見、矛盾した現象のことをいいます。
これは、日本を含めて世界の国々で共通にみられる現象です。最近の研究(2019年)でも、アメリカ・ダートマス大学の経済学者・デービッド・ブランチフラワー教授が世界132ヵ国のデータを分析し、人生の幸福度が最低になる年齢の平均は先進国で47.2歳、発展途上国では48.2歳であると発表しています。
幸福感を縦軸に、年齢を横軸にしてグラフにすると、全ての国で18歳くらいから幸福感が低下していき、40歳代後半で底打ち、その後は上がっていくU字カーブになります。
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一人でいる姿を見て、「孤独で可哀想だ」と勝手な判断をし、関わろうとしたり、どこかに連れ出そうとしたりするのは大きなお世話です。
そもそも、誰でも「一人でいたい」という気持ちと、「集団の一員でいたい」という気持ちの両方を持っていますから、一概に「一人でいるのは良くない」というのも乱暴な話です(これからは、一人でいてもインターネットでつながりを持つから構わないという人も増えていくかもしれません)。