(※写真はイメージです/PIXTA)

土地持ちで資産家の父が逝去。父が遺した公正証書遺言の内容は、後妻に極めて手厚いほか、相続財産としての現預金が100万円しかないなど、あまりに不公平で不自然な状況です。子どもたちは納得できず、調査を始めたのですが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

土地持ちで資産家の父、子どもの反対を押し切り再婚

今回の相談者は、50代の会社員の中村さんです。亡くなった父親の相続について大変困った状況にあるということで、筆者のもとを訪れました。

 

中村さんの実家は農家で、広い田畑を所有していました。昔は中村さんの両親が切り盛りしていましたが、母親は40代という若さで亡くなってしまいました。その後、父親は子どもの反対を押し切って再婚しました。

 

中村さんは4人きょうだいで、長男・長女・二女、二男という構成で、中村さんは末っ子の二男です。兄である長男は10年前に病気で亡くなっており、亡き兄の子ども2人が代襲相続人となります。

 

中村さんの父親が再婚してから、同居していた長男家族は別居し、父親は後妻と二人暮らしになりました。また、以前は農地だったところもいまは宅地となり、貸店舗、賃貸アパート、駐車場等の収益不動産に姿を変えています。

 

父親が所有する広い自宅敷地には、亡くなった長男の家のほか、二男の家もあり、長女家族も敷地内にある父親名義の家に暮しています。隣県に嫁いだ二女以外、相続人は日々顔を合わせて暮らしています。

父が遺した遺言と、資産状況の内訳に納得できない

「父親は公正証書遺言を残していました。それによると、4人の子どもに相続させるのは、使用貸借している自宅の土地と貸家の土地だけ。二男である私には、貸店舗と駐車場を余分に相続させるとの内容でした。賃貸収入のある不動産と預金等のすべては後妻が相続するので、自宅か築30年以上の貸家を売らなければ納税できない状況です」

 

中村さんは、不服そうに言葉を続けました。

 

「もし遺留分の請求をする場合は、後妻ではなく二男の私にするようにとも書き添えられていました。公正証書遺言は弁護士が執行者に指定されていて、送られてきた財産の明細では、預金残高が約100万円のみ。毎月の賃貸収入が200万円以上あるはずなのに、不自然すぎるのではないでしょうか」

後妻が自宅に積み上げたタンス預金は「2億円」

中村さんの父親は8年ほど前に土地を売却しており、その際に億単位のお金が入ったとも聞いています。また、毎月の賃貸料も相当あることから、預金はもっと残っていないとおかしいというのが、後妻以外の相続人全員の意見でした。

 

筆者の事務所と提携する弁護士は、金融機関に預金の入出金や株の取引明細の情報公開を請求し、おおよそのところを調べ上げ、その結果を遺言執行者の弁護士に提示して事実確認を求めたところ、なんと後妻は、父親の毎月の収入を全部口座から引き出し、自宅に2億円以上の現金を保有していることを認めたのです。

 

中村さんのきょうだいとおいめいは、相続税の申告も後妻とは別に行い、後妻側の税理士にも情報公開を請求しました。そして、遺言執行者に後妻の代理人となってもらい、遺留分請求をする代わりに、相当の財産分与を求めた遺産分割協議をして、無事に相続税の申告を終えました。

 

今回の一番の問題点は、後妻が財産をオープンにしなかったことが挙げられます。また、遺言執行者の弁護士は後妻側が依頼しており、その点も中村さんきょうだいの交渉を難しくした要因です。

 

遺言通りに遺産分割すると、子どもたちは不動産しか遺産がないため納税資金のめどが立たず、一方、潤沢にあってしかるべき預貯金がほとんどないなど、状況は明らかに不自然でした。

 

預金の状況を調べるには、金融機関に取引明細の情報開示をしてもらう方法が有効です。株の保有状況も、銘柄がわかっていれば調査可能です。また、相続税の申告を後妻と別に提出することで、先方の情報を得ることができます。

 

公正証書遺言が準備されていても、必ずそれに沿わないといけないというわけではなく、意見が一致するのであれば、相続人全員で遺産分割協議ができるのです。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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