緊急事態宣言の解除後、税務調査が急増
確定申告の際、皆さまは財産債務調書、ならびに国外財産調書の提出をされていますでしょうか。「まだまだ大丈夫なんじゃない?」「提出はしていないよ」というお声を耳にすることが多々あります。
以前のコラムでもお伝えしたように、緊急事態宣言の解除後、税務調査が急増しています。中でも今回は、実は税務調査が入ったとき、とても肝となりえるこれら調書のうち、国外財産調書の提出について深堀りしていきたいと思います。
国外財産調書とは?
富裕層の方の国外財産の保有は年々増加傾向にあるなか、国税当局は海外の税務当局との情報交換やCRS(【用語解説】を参照)の活用を進め、国外財産に関する課税に注力をしています。そんな代表施策が、「国外財産調書」制度です。
日本の居住者が12月31日時点において合計5000万円超の国外財産を保有している場合には、国外財産調書を作成して、その年の翌年3月15日までに所轄の税務署に提出しなければならない制度です。
よく勘違いされる点としては、資産が1億円で、借り入れが1億円の場合など、資産と債務を相殺しての5000万円というハードルではない点にも注意です。資産の価額の合計額が5000万円を超える場合には必ず提出が必要となります。
国税庁の発表では国外財産調書の提出件数は年々増えており、令和2年の発表によると総提出件数は1万1331件でその財産総額は4兆1465億円となっています。
【用語解説】CRSとは…
CRSとは、各国が非居住者の金融口座の情報を、他国の税務当局との間で自動的に交換する仕組みで、経済協力開発機構(OECD)が策定してスタートしたものです。口座保有者の個人情報や口座残高などが対象になっています。
国外財産調書を「提出しなかった」場合のペナルティ
今年に入り、国外財産調書(財産債務調書含む)の提出をされていない個人の方の税務調査に立ち会うことがありました。
過去担当されていた税理士の先生からはこれら調書の提出について何もお知らせやお伺いはなかったそうで、これまで重要なものであるとの認識はなかったようです。
その税務調査はやはりCRSを活用して得た国外財産の情報をもとに着手したようで、国外財産についてのヒアリングが主となりました。結果、所得の申告漏れや計算方法の間違いなどが指摘事項となり、かなりの金額の所得を対象に修正申告となりました。
実際に納付が必要な金額を計算してみて驚いたのが加算税の重さでした。
というのも国外財産調書は自主的に自己の情報を記載し提出するものである一方、提出をしないことによるペナルティも設けられています。
特に注意をしておきたいのは過少申告加算税および無申告加算税の特例措置です。国外財産調書を提出していれば、調書に記載された財産に関する所得に申告漏れがあったときでも加算税が5%軽減されます。
一方、調書の提出がない場合または提出された調書に記載のない国外財産から所得の申告漏れがあったときには加算税を5%加重する措置が設けられています。
実際にこの措置が適用されたのは、令和2年中で軽減5%の措置が126件、対象所得約43億円、加重5%の措置となったのが307件、約88億円とのこと。
今回のケースでは意図的な所得隠しではなかったにせよ、調査対象となった年度すべてにおいて、提出していなかったことによる加算税の加重が5%となり、ペナルティがかなり重くのしかかってしまったのです。
「提出しなかった」せいで調査対象になることも
こういったお話をすると、調査に来ない限りペナルティはないんだし、提出しなくてもいいですか?というご質問をよくいただくことがあります。
先で述べたとおり、直近の税務調査の現場ではCRSの活用により、提出要件にあてはまるはずの個人から国外財産調書が提出されていない場合、それをトリガーとして税務調査に着手したであろうケースが散見されています。
要件に当てはまるという方は確実に提出をしておくことをおすすめいたします。
まとめ
令和4年の税制改正で令和5年分より財産債務調書、ならびに国外財産調書の提出要件が一部変更となります。ますます国外財産に対する国税の目が厳しくなる一方で、提出期限が6月30日までに延長されるなど、納税者の観点に立った変更も行われる予定です。
まだ出していないという方は、ぜひ早めの提出をおすすめいたします。
確定申告や国外財産調書、国外財産に関する税務調査については、国際資産税に精通した専門家にお問い合わせをしてみてください。
佐下谷 彩代
税理士法人ベリーベスト 税理士
一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント
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