「申告対象ではないか?」税務当局から“難癖”も…税務署もわかっていない「海外積立年金保険」運用の注意点【税理士が解説】

税務調査シリーズ②

「申告対象ではないか?」税務当局から“難癖”も…税務署もわかっていない「海外積立年金保険」運用の注意点【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士が解説する“税務調査シリーズ”。第2弾となる本稿では、直近増加している国外財産に関する税務調査の中でも、指摘事項として特に目立つ「海外保険」を見てきましょう。

海外積立年金保険とは?

海外積立年金保険では、毎月「保険料」という形で、固定の金額を拠出し(一般的には外貨建て)、その資金が保険契約内において、投資信託等運用資産の購入に充てられます。

 

そうして積み上げてきた運用時価総額を、契約期間中に一部取り崩したり、また契約の満期時に解約して受け取るものです。日本と比較し金利・利回りが高いことで、富裕層などまとまった資金がある方に人気の商品です。

 

しかし、近年ではCRSの影響もあってか、その運用期間中に調査、または問い合わせが入ることが多くなっています(※)

 

※積立年金保険提供会社の準拠国は英国領マン島(Isle of Man)や英国領ガーンジー島、香港であることが多く、CRSの対象国です。

税務署からどんな指摘事項が挙がるのか?

税務当局からの問い合わせで多く挙がるのは、契約期間中において、ある一時点(たとえば年末において)での時価総額で、投資元本に対する上澄み(利益)部分は、申告の対象になるのではないか?という点です。

 

たとえば運用報告の出力時に表面上の利益が出ていたとしても、それはまだ実際に取崩し、解約等がされたわけではなく、「実現していない利益」であるため、利益申告の対象にはなりません。

 

また、仮に運用期間中のファンド間の資金を移動(スイッチング)してもその時点では課税されず、実際の年金受取時や解約時まで課税が繰り延べられるため、全額再投資される、長期においては複利効果が生まれることが、年金保険型商品の最も大きな特徴の一つです。

 

同じ理由で、日本の個人・法人は日本円から外貨の契約に対して毎月の保険料を拠出することも多いのですが、為替差損に対してもファンドの売却時まで実現しないため申告の対象にはなりません。

 

しかし、上記の点を税務署は理解せず、その時点での投資元本に対する運用利回り(上澄み)の高さだけに着目し、「申告対象の利益が出ているはずだ」や、挙句の果てに「代表者に何かしらの『配当』などが払われているのでないか?」の難癖ともいえる指摘が続くケースがありました(この種の契約においては、契約期間中に投資信託から配当が出ることも極めて稀です)。

 

結局は、商品概要・約款等を英文のまま提出し、税務署への対応を繰り返したのちに、無事収束させることができました。

加入時や申告時に確認しておくべきこと

今回取り上げた事例は、一部の指摘事項で、問題なく税務署対応が完了した事例ですが、先ほど申し上げたとおり、解約返戻金とは別に、まれに契約期間中に配当が出るケースなどもあります。その場合にはもちろん確定申告の際に、配当として申告が必要となりますので、海外保険契約に加入する際、商品概要や約款等の確認を行うようにしましょう。

 

また解約返戻金を取得した際には、一時所得として申告が必要です。

 

特に海外送金での入金となりますので、CRSにて確実に税務署に捕捉されていると思っていただいて良いかと思います。解約時に「申告に必要な資料がない…」とならないように、しっかりと資料の保管をしておくことが重要となるでしょう。

国外財産調書に記載すべき事項について

海外保険の契約については、「その他の財産」として国外財産調書に記載をする必要があります。

 

土地や建物、預金等の金融商品については漏れなく記載されている方が多いですが、保険に関しては記載を見落としているケースをよく見かけますのでご注意ください。

 

また「保険の契約に関する権利」について、国外財産調書に記載すべき価額は、積立、一括の保険の種別を問わず、その年の12月31日においてその生命保険を解約することとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額、と定められています。

 

保険会社から各年の解約返戻金の額について、明細を入手している場合には、12月31日前の日において解約することとした場合の金額でも差し支えありません。調査で指摘された事例に書いたように、時価を必ずしも把握しておかなければいけないというわけではないことにご留意ください。

 

冒頭でも述べたとおり、海外保険は日本の保険にはない利回りなどにより大変人気の商品です。しかしその一方で、税務署の担当者や投資家本人も、申告の要否についてしっかりと把握できていないというのもまた事実です。

 

ただ、いざ調査が入ったとしても、正しい申告をしていれば問題がありません。今後加入を考えられている方も、すでに加入済みの方も、是非このタイミングでそれぞれの商品特性の把握、国外財産調書への記載方法などの確認を行ってみてはいかがでしょうか。

 

 

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録