(※写真はイメージです/PIXTA)

令和2年度の税制改正により、個人投資家向けの優遇措置「エンジェル税制」が使いやすくなりました。本制度によって得られるメリットや、本制度を活用するために投資家が満たすべき要件について、税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士が解説します。

「エンジェル税制」とは?

「エンジェル投資家」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。

 

立ち上げから間もないベンチャー企業に巨額の投資を行い、その投資先企業が上場することで投資した金額以上のキャピタルゲインを得る、ほんのひと握りの個人投資家、というイメージをお持ちの方も多いのではないかと思います。

 

そんな彼らもまた、自ら立ち上げた企業をバイアウトやIPOをし巨額の資金を得た起業家であることも往々にしてあります。

 

しかし、今回ご紹介する「エンジェル税制」は、先にあげたほんのひと握りのエンジェル投資家のための制度ではない、個人投資家に向けた制度です。

 

所得税制上の優遇措置を行うことで、ベンチャー企業への投資をさらに促進するべく創設されており、ぜひ投資家の皆さまに知っていただきたい制度なのです。平成9年に創設されましたが、その要件の厳しさゆえ利用が増えない時期が長く続きました。しかし令和2年度の税制改正により一部要件が緩和され、より使いやすい制度になりました。

エンジェル税制のメリット:所得控除、減税措置

では投資家がエンジェル税制を利用することで享受できるメリットを見ていきましょう。

 

まず1つ目は投資時の所得控除です。

 

●優遇措置A:投資額(最高1000万円)について寄付金控除の適用を受けることができる

●優遇措置B:投資額全額(上限なし)をその年の株式譲渡益(一般株式、上場株式の順)から控除することができる

 

投資先が適用要件を満たしていれば、これらのうちいずれか有利な方法を投資家は選択することができます。

 

【優遇措置A】は、創業3年未満の中小企業であることや、営業キャッシュフローが赤字であること。【優遇措置B】は、創業10年未満の中小企業であることなどその他細かい要件がありますので、投資を考えている企業がどちらに当てはまるのかを確認する必要があります。

 

これらについては中小企業庁が事前確認制度を設けており、エンジェル税制の対象になっている企業のリストを公開しています。優遇措置のどちらが適用可能なのかについても記載されているので、ぜひ投資先選定の参考にされてみてください。

 

2つ目のメリットは、そのベンチャー株式の売却時の減税措置です。

 

ベンチャー企業の株式を売却した際に損失が出た場合に、他の株式譲渡益から控除(一般株式、上場株式の順で控除可)できるだけでなく、3年間の損失の繰越控除が認められています。

 

なお投資した年に優遇措置適用を受けている場合には、優遇措置により控除した金額を売却時の取得価額から差し引く必要があります。この減税措置については投資先が優遇措置A、Bいずれかの要件を満たしていれば適用が可能です。

 

また、投資先のベンチャー企業が破産し、株式が無価値化した場合などでも同じように3年間の損失繰越が認められています。

投資家が満たすべき2つの要件

先ほど、投資先の要件があるとお伝えいたしましたが、もちろん投資家にも以下の要件があります。

 

●金銭の払い込みにより、対象となる企業の株式を取得していること

●投資先が同族会社である場合には、同族会社判定の基礎となる株主ないし株主グループに属さないこと

 

これは投資時の所得控除を受ける年、株式売却時の減税措置を受ける年ともに満たしていなければいけない要件となります。2つ目は同族会社など、損益をコントロールできる企業に対して、これらの特例を享受することはできませんよ、という意図があります。

エンジェル税制とふるさと納税、システムは同じだが…

投資時の優遇措置については寄付金控除の適用となるので、ふるさと納税と似ているな、と思われた方も多いのでないでしょうか。まさにシステムとしては同じで、「投資額-2000円」を寄付金控除として、投資した年の総所得金額から差し引くことができます。なお、限度額は総所得金額の40%または1000万円のいずれか少ない方となります。

 

しかし、異なる点としては、ふるさと納税は「所得税」と「住民税」で適用される制度ですが、エンジェル税制で投資時点での優遇措置である前出A・Bは、「所得税のみ」で適用される特例であります。

 

実質2000円の負担のみとなるふるさと納税の限度額計算は、所得税と住民税を考慮して行う必要がありますが、エンジェル税制については住民税を考慮する必要がないため、別途計算をする必要があります。

 

また、エンジェル税制の適用については必ず確定申告が必要となります。ふるさと納税のようなワンストップ特例制度は整備されていませんので注意が必要です。

 

なお、売却時点での優遇措置である損失の繰越については、所得税および住民税の両方に認められています。

 

ご自身の場合にどのような効果があるのかについては、税理士への確認も必要となるでしょう。

まとめ

税制優遇など、とてもメリットがある一方、やはりベンチャー企業への投資はリスクが伴います。しかし、ベンチャー投資は海外ではかなり普及しています。これはリスクを取り失敗したとしても、寄付として投資家がメリットを享受できる税制システムが整備されているからと言えます。

 

まだまだ要件と手続きが複雑ではありますが、エンジェル税制は日本の税制でもその先駆けとなるものです。ぜひ応援したいと思うベンチャー企業があるようであれば、エンジェル税制が適用されるかどうか、確認されてみてはいかがでしょうか。

 

 

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

 

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