(※写真はイメージです/PIXTA)

令和2年度の税制改正により、加速度償却(【用語解説】を参照)が封じ込められた海外不動産。償却も取れなくなってしまったし、そろそろ売却のタイミングかなと考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士が、売却を考える上でとても重要な「長期譲渡」となる“判定のタイミング”について説明します。

【用語解説】「加速度償却」とは…

加速度償却とは、富裕層を中心に行われてきた「海外築古不動産」を利用した節税スキームです(令和2年度税制改正により、令和3年度以降このスキームは使用できなくなりました)。

 

日本では、木造居住用住宅の場合、法定耐用年数は22年と定められ、その年数で建物価格を償却します。しかし、欧米の物件は建物価格の割合が高く、かつ建物の寿命が長いため、まだ長く使える中古物件でも日本のルールに沿って計算すると物件によっては4年程度の短期間で償却可能でした。この短期間で減価償却を行うことを加速度償却といいます。

 

なお、加速度償却による減価償却費は賃料収入を超えることとなり、その他の所得と損益通算することが可能でした。

「短期譲渡か、長期譲渡か」で税率はこれだけ変わる

個人で不動産を保有している方なら誰しも聞いたことがある「短期譲渡・長期譲渡」という言葉。今一度その意味をおさらいしておきましょう。

 

これは所得税法上の考え方で、土地や建物を売却した際の所得は、売却までの所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得に区別し、それぞれ使用する税率が変わることを指します。

 

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【長期譲渡所得】

15.315%(所得税+復興特別所得税)+住民税5%=20.315%
※譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地や建物を売ったとき

 

【短期譲渡所得】

30.63%(所得税+復興特別所得税)+住民税9%=39.63%
※譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の土地や建物を売ったとき

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このようにかなり税率に違いがありますので、長期譲渡になるタイミングは不動産売却において、とても重要であるといえます。

短期譲渡か長期譲渡か…「所有期間5年超」の判定方法

この判定に関してお客様からのご質問で多いのが、「購入から5年経てば売っていいんだよね?」というもの、これ、本当はとても危険です!

 

<「X1年5月1日」に購入されたAさんの場合>

単純に購入日から5年過ぎた!と考えてX6年7月に売却をすると、譲渡した年の1月1日において、4年と8ヵ月しか経過しておらず、短期譲渡所得となってしまいます【図表】。

 

【図表】Aさんが「長期譲渡所得」に該当するには…

 

長期譲渡所得に該当となるためには、X7年1月1日以降に売却をすることが要件となります。

 

所有期間5年超の条件を計算するのに最も簡単なのは、取得した年に「6」を加えた年の1月1日より後に売却すると覚えておきましょう。

どのタイミングで「売却、譲渡」とみなされるのか?

次の年の1月1日に長期譲渡になると確認を取られたお客様が、さっそく売却のお話を始められ、「売却先がスムーズに見つかりそうです」とご連絡をくださいました。

 

いざ契約の話を進めていこうとなったとき、そこで気になってくるのが、実際に譲渡とみなされるタイミングについてです。

 

所得税法上、固定資産の譲渡の時期は、その引き渡しがあった日とされています。

 

しかし実際には、売買契約を締結した日、代金を受領し登記した日、どの日を引き渡した日とするかは個人の判断にゆだねられています。

 

実務上は税金の支払いタイミングを考えて、最終決済が終わり、引き渡しを行った日をもって譲渡とするケースが多いです。

 

土地や建物を売却して、契約日と引き渡し日が違う年となる場合は、どちらの年で申告するほうが有利か検討することができるということです。

 

つまり、今回のような長期譲渡が適用となるタイミングの検討が必要な場合には、これらを踏まえて契約を進めることが必要になります。

まとめ

冒頭でも述べたとおり、海外不動産は加速度償却の封じ込めにより、今後の方向性を検討する時期を迎えています。

 

純投資として個人で持ち続けるのか、売却をするのか、または資産管理法人に売却するのか。今後さまざまな出口戦略を検討する必要があるため、その一判断材料として、長期譲渡のタイミングがいつ訪れるのか、今一度ご自身の資産に関して洗い出してみるのはいかがでしょうか。

 

 

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

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