一五年以上ボロボロになるまで乗り続けた車
それから結衣は、父に関するあらゆる問題を出していきました。
「おじいちゃんの初恋の相手は誰?」
「おじいちゃんが子どもの頃になりたかった職業は何?」
「おじいちゃんが今も大切にしている宝物は何?」
私を含め、そこにいる親族の誰もが正解を答えることができませんでした。
私は結衣が正解を発表するのを聞いて、初めて父の初恋相手が小学校の担任の先生だったことを知りました。そして、その先生への憧れから、父が学校の先生を夢見ていたことも初めて知ったのです。それでも、父の家は貧しく、大学へ進学する余裕もなかったことから、父はその夢を断念したというのです。
「みんな、おじいちゃんのこと何も知らないんだなぁ。今なら、私が一番おじいちゃんのこと知ってるんじゃないの? そして、おじいちゃんの宝物はジャーン! これです!」
結衣は一枚の写真をみんなに見せました。そこには一台の車の前に立つ父と母、それに私たち兄弟が写っています。
「この車に乗って、家族でいろんな所に旅行に行った思い出。それがおじいちゃんの宝物です」
それは私が小学生の頃に初めて父が買った車で、一五年以上ボロボロになるまで乗り続けた車でした。私たち家族は、父の運転するその車で近場の日帰り旅行によくでかけ、何年かに一度は温泉旅行にも出かけていました。
車の中で聴いた音楽や食べたおやつ、渋滞に巻き込まれたことなど、あの頃の思い出が一気に蘇りました。
それからも結衣は、思い出の映画や思い出のイベント、好きな食べ物など、次々とクイズを出していきました。やはり、誰も答えられませんでしたが、その都度、答え合わせで話されるエピソードに家族みんなで反応し、懐かしい思い出話に花を咲かせたのです。
そして、最後のクイズが出題されました。
「おじいちゃんが生まれ変わったらなりたいものは何でしょう?」
これにも誰も答えることはできませんでした。そして、父が答えを教えてくれます。
「仕事はどんなものでもいいけど、生まれ変わっても、母さんと結婚したいと思ってる。そして、また同じ子どもたちに恵まれて、生まれ変わっても同じ家族を作りたい」
父が家族を思う気持ちがみんなに伝わり、とてもいい古稀のお祝いになりました。結衣のクイズが終わったとき、私は父に言いました。
「父親のこと、知らなすぎて恥ずかしいよ。ゴメンな」
「いやいや、自分のことなんて、ぜんぜん話してこなかったからな。仕方ないさ」
そして父は、結衣に近づき、その頭に手をのせました。
「結衣のおかげで、本当に楽しいお祝いになったよ。ありがとう」