(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

夫との早すぎる別れ

二年前、夫は五八歳でこの世を去りました。

 

中学時代の同級生で、それからずっと一緒に過ごしていましたので、この生活がこの先も続くものだと信じていた私にとって、それは本当に早すぎる別れでした。

 

就職したばかりの息子と、まだ大学生の娘を残していましたから、亡くなった本人もまだまだこれからだと思っていたはずです。

 

夫の死後しばらくは、葬儀の準備や、親せきや友人、知人への連絡などもあり、ばたばたと時間だけが過ぎていきました。悲しみはもちろんありましたが、父親の死を受け入れられずにいる子どもたちを前に、自分が泣き崩れるわけにはいきません。そんな思いもあり、母としてとにかく気丈に振る舞うことに徹しました。

 

初七日を済ませたころ、家を訪ねてくる人の数も減り、これでようやく落ち着いて夫を偲び、悲しむことができると思いました。

 

ところが、息子のひと言で、現実に引き戻されたのです。

 

「お母さん、これからの生活って、大丈夫なの?」

 

息子は就職しているものの、私と娘の生活費まで息子に甘えるわけにはいきません。しかも、娘の卒業まではあと二年あり、その学費も必要なのです。

 

それまで、私は家計のことはほとんど夫に任せていました。月初めに夫から決まった額をもらい、そこから食費と月々の支払いのやりくりをしていたくらいです。そのため、家にどれくらいの現金が残されていて、どれくらいの貯金があるのかも知りませんでした。子どもたちとも話してみましたが、きっと財産のようなものは残されていないだろうというのが、全員の一致した見解でした。

 

夫が残してくれたものといえば、夫の祖父が建てたという広い土間があるのが特徴の古い日本家屋だけです。それでも、雨露がしのげるだけ感謝しようと子どもたちと話し、私もパートに出ることを決めました。

 

これからの手続きを相談していた税理士の先生から電話をもらったのは、そんなときでした。

 

先生は、夫が残した遺産分割のことで訪問したいと言いました。遺産なんてないと思っていた私たち家族は、はじめは先生の話を疑いました。しかし、電話で丁寧に説明をしてくれたため、先生に家へ来てもらうことにしました。

次ページ知られざる夫の遺産

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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