中小企業として取り組むべき4項目
両利きの経営は、「両利きとなるための4つの要素」を挙げています。それらを踏まえた上で、中小企業として取り組むべき4項目について以下に説明します。実践にあたっては、リーダーシップの発揮がポイントとなります。
①戦略の策定
葛藤が生じやすい新規事業と既存事業のメンバーが前向きに協力するためには、両者の納得できる説明が必要です。全体戦略との整合性、既存事業の資産を活かした競争優位性などに着目して戦略策定と提示を行い、理解を得ることが重要となります。
②両利きの組織設計
経営学において”両利き”という言葉が最初に使われたのは、1976年、ロバート・ダンカンの研究論文であり、下記の「①連続的な両利きの経営」が想定されていました。その後の多くの研究により、「両利きの経営」分類として下記の3つが存在します。
ⅰ 連続的両利きの経営
既存事業が軌道に乗った段階で、「深化」のモードから「探索」のモードへ連続的に切り替えていく方法です。通常業務を営みながらイノベーションに同時並行で取り組むことになります。
ⅱ 構造的両利きの経営
サブ組織を設けて、「知の探索」と「知の深化」のそれぞれに適した経営資源(研究開発の部署など)を配置する方法です。
ⅲ 文脈的両利きの経営
個人に知の探索行動と深化行動を取る権限を与え、個人の裁量権に任せることで達成する取り組みです。グーグルの20%ルールは、これに該当します。
中小企業が両利きの組織運営を考えるにあたっては、ⅱのような「別組織の設置」は困難なケースが少なくないと想定されます。新規事業の目標や要員規模を考慮して、ⅰあるいはⅲの採用や組合せなど、最適な方法を取り入れていくことがよいでしょう。
③経営者の支援・管理
葛藤が生じやすい探索チーム、深化チームの両方を有効に機能させるため、リーダーは、それぞれと十分なコミュニケーションを取って議論を行い、管理していく必要があります。対立が生じた際には、それにしっかりと向き合い、目標に向かって両チームが前向きな解決を図っていけるよう導いていくのです。特に圧力をかけられやすい探索チームを支援していくことが重要です。
④共通ビジョン
探索チーム、深化チームのメンバーが積極的に協力、前進するためには、頭で理解するだけでなく、熱意を持って行動することが重要です。両者の心に訴える共通のビジョンや目標を策定、浸透させることは、既存資源を共有して社員が一丸となって前進するのに有効です。
「中小企業ならではの強み」に目を向ける
一般的に、中小企業の「両利きの経営」における最大の制約は、限られた経営資源にありますが、一方で、中小企業ならではの強みも多く存在します。
規模が小さいため、経営者が社員とコミュニケーションを取りやすく、リーダーシップを発揮しやすい環境にあります。
企画から意思決定、実行までの時間は短くて済みます。
また、中小企業の経営者は株主でもあることが多く、経営者の在任期間が長いため、長期にわたって一貫性のある意思決定を行うことができます。
更に、目指す市場の規模が小さくても事業が成立しやすくニッチ分野に参入しやすい点もメリットとなります。
こうした強みに目を向け、新規事業の取り組みをぜひとも前へ進めていきたいところです。
五藤 宏史
五藤コンサルティングオフィス 代表
中小企業診断士
事業承継支援コンサルティング研究会