子は独立、妻は介護施設…自宅売却を決めた高齢男性
ある高齢の男性が、自宅の不動産を売却することに決めました。子どもは同居しておらず、妻は介護施設に入ることが決まり、一人暮らしするには広過ぎるし不便だと感じたからです。
「売却金があれば自分も介護施設に入ることができるし、バリアフリーのマンションを借りるのもいいな」と思っての判断でした。近所の不動産屋に相談したところ、担当者からは非常に前向きな返答が得られました。
「日当たり良好の土地なので、良い条件で売ることができますよ!」
担当者の営業文句に気を良くした男性は、その場で専任媒介契約を結んだのです。ところが、そのあとに待っていたのは、「もう買手がつきましたよ!」といううれしい報告ではなく、担当者からのさらなる営業のオンパレードでした。
「少し家の造りが古いので、リフォームをしましょう。若い方がきっと買ってくれますよ」
「お庭もお手入れして見栄え良くしましょう。いい造園業者を知っていますから」
「家は何も置かれていない状態のほうが、内見も気軽に行っていただけます。余裕がおありでしたら、次のマンションに移られてはいかがですか。賃貸でもいいですが、買うのもいいかもしれません。いいお部屋をお探ししますよ」
これら担当者の「気遣い」は、もちろん営業の一環で儲けのためなのはいうまでもありません。
リフォーム会社や造園業者を斡旋し、紹介料ゲット
リフォームや庭の手入れの斡旋は、不動産の価値を高めるためというのはうわべだけの話で、仲介業者が懇意にしているリフォーム会社や造園業者に依頼することで、各依頼先から紹介料を受け取っているのです。
売主からの仲介手数料と買主からの仲介手数料、両手から儲ける双方代理だけでなく、各リフォーム会社からのマージン、さらには引越し先探しの仲介料まで受け取り、仲介業者は一つの売却物件でおいしいところを総取りしようという魂胆です。もちろんその結果、男性の不動産が期待以上の価格で売却でき、なおかつ理想に合った部屋に引っ越すことができればそれでいいわけですが、事情をよく知る者から見れば、
「リフォーム会社なんて、自分で依頼すればもっと安いのに」
「そもそも最初から営業力の高い業者だったら、もっと早く高く売れたと思う」
と、売主の不利益を感じずにはいられません。
売買成立どころか、解体を持ち掛けられ…
もっとひどいと、内見に来てもなかなか売買成立まで至らず、業を煮やし、
「いっそ解体して更地にするのもいいかもしれません。いい解体業者を知っていますよ」
と持ちかけてくることもあります。こうなったら呆れるしかありません。仲介業者はノーリスクで丸儲け、立て続けの出費に泣くのは売主だけです。
このようなケースには高齢の方ほど引っかかりやすいようです。若い方はこのような営業を受けてもその場では受け入れません。インターネット上に情報が溢れているということもあり、「まず自分で探してみます」と冷静に対応する傾向にあります。
家の精 情報収集力が乏しく、判断力が低下傾向にあるお年寄りがターゲットにされやすいわけだな。
アサミ 若くても油断はできないわね。同年代の話しやすい担当者だと、つい気を許しちゃいそう。
もしあなたが高齢なのであれば、この点には十分に注意しましょう。身近にいる若い方にも協力を仰いで、冷静に「急であっても急がない」の精神で、売却までのプランを固めていくようにしましょう。
また、身近に高齢な方がいて不動産の売却を検討しているようであれば、事細かに支援する姿勢を大切にしてください。決して仲介業者の食い物にされぬよう、予防線をばっちり張り巡らせましょう。
露木 裕良
一般社団法人「不動産売却支援ネット」 理事長
「不動産高く売りたい.com」 サイト運営
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