(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアが実際にサイバー戦の重要性を証明した例があります。2014年にロシアとウクライナがクリミア半島の領有権を争った「クリミア併合」です。どんな戦いが行われたのでしょうか。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

日本における軍事面でのサイバー攻撃の実例

サイバー空間に「平時」はない。文字通りの「常在戦場」であり、つねにアップデートされた最新技術を駆使した攻撃が続けられている。その目的はただひとつ、政治、経済、軍事などあらゆる面で、対象国より自国の優位を実現することにある。実現すべき「自国の優位」とは、例えば、中国が目論む領土の拡張やアジア地域における覇権、そして国際社会における影響力の増大など様々だ。

 

中国、ロシア、北朝鮮といった事実上の独裁国家は、この人為的に作り出された空間を、ルール無用の「新たな戦いの領域」と位置付けている。この“血が流れない戦場”を我が国の安全保障をになう自衛隊は守り切れるのか。その問いに答える前に、サイバー空間における戦いとは何か、どんな戦いが繰り広げられているのかを検証していきたい。

 

■北朝鮮による攻撃

 

北朝鮮は、国家の存亡をかけてサイバー戦能力の向上に力を注いでいる。北朝鮮のサイバー戦の特徴は技術を欲しがる中国とは異なり、外貨―ビットコインなどの暗号資産、ドルなどの現金―を狙うのが特徴だ。サイバー攻撃で入手した資金の相当部分が核ミサイルの開発に使われている。

 

担当は国防省の傘下で対外諜報や特殊工作をになう、朝鮮人民軍偵察総局だ。この偵察総局は2017年2月に、マレーシアのクアラルンプール国際空港で金正恩総書記の異母兄である、金正男ム氏を暗殺した実行犯の所属先である。

 

偵察総局には非友好国のインフラを中心に破壊活動や諜報活動をおこなう「121部隊」、軍事・科学技術を窃取する「91号室」、サイバー攻撃のための技術開発をになう「ラボ110」、そして外貨獲得が専門の「180部隊」が置かれ、総勢6800人が任務に就いているという。

 

とくに「ラザルス」の異名をもつ180部隊の活動は顕著だ。2016年2月にバングラデシュ銀行から約88億円相当の米ドルを盗み出したほか、中東の金融機関から約54億円を、韓国企業から約60億円もの暗号資産を強奪したと報じられている。

 

無論、日本も他人事ではない。2018年1月に暗号資産取引所の「Coincheck」がハッキングを受けて、じつに580億円相当の暗号資産「NEM(ネム)」が窃取されている。

 

彼らの荒稼ぎは祖国に莫大な外貨をもたらしている。2019年8月に国連安保理の北朝鮮制裁委員会に属する専門家パネルが公開した資料によると、各国の金融機関や暗号資産の取引所から窃取された資金は累計2100億円に達するという。

 

その専門家パネルは2021年2月、2020年2月にセーシェル諸島の暗号資産取引所からおよそ306億円相当の「クーコイン(KuCoin)」が奪われた件について、「北朝鮮の関与が濃厚」との見方をしている。

 

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    本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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