不動産を活用した節税は対策次第で効果的ですが、やり方を間違えると「ワケあり不動産」が生まれてしまいます。この連載では、「ワケあり不動産」が生まれる原因とその対策を解説します。

相続税評価額を決める「時価」は、いつの時点が基準!?

ワケあり不動産が生まれてしまう背景には、「不動産の評価方法を知らない」ことや「収益性を考えずに賃貸不動産を購入する」こと、「申告期限が短いためにとりあえず共有で相続する」ことなどが原因として考えられますが、もっとおおもとをたどれば、土地と建物を取り巻く税法や民法に根本的な原因があることがわかってきます。

 

例えば「時価」ですが、いくつもの参考価格があり、市場で売買される価格と相続税評価額に乖離があることが問題となります。

 

相続税法上では、「相続等により取得した財産の価額は時価による」という旨が記載されているにすぎず、実際にどの価格を採用するかということまでは規定していません。しかしそれではあまりにも不明瞭なので、国税庁は財産評価基本通達の中で、相続時には土地の場合は路線価、建物の場合は固定資産税評価を使用して評価額を算出するという具合に規定しているのです。

 

これは法律ではありませんから、必ず守らなければならないものではありませんが、この通りに税務を行えば、税務署に目をつけられにくくはなります。税理士によっては、そういった保守的な考え方からこの通達通りに時価を算出することがあり、市場価格との乖離に悩まされるという案件が時折出てきます。

 

さまざまな事情もあるのでしょうが、とにかくこのように時価が複数あることが問題を引き起こしています。土地や建物が一物一価であれば、相続税評価額と市場価格に乖離など発生しません。もし、1つの価値基準で相続税が課税されるのであれば、ある人は相続財産の5割ほどの納税で済み、ある人は9割ほどの納税をしなければならないといったこともなくなるかもしれません。

相続税の申告期限が短すぎるのも「こじれる」一因

また、「相続税の申告期限」についても問題があります。こちらも法律上では、「相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」と規定されています。多くの場合、相続の手続きは四十九日以降から始めることになります。それから、被相続相続税額の圧縮が期待できる特例が適用できないということです。

 

つまり、何とか間に合わせられるようにその場しのぎの分割をしてしまうことにつながってしまうのです。また、その場しのぎの分割で、共有にしてしまった場合に多くの問題を抱えてしまうこともあります。

 

ただ、この申告期限までにすべてを完璧に終わらせなければいけないかというと、必ずしもそうとは限りません。ひとまず申告を仮の状態で済ませておいて、その後、相続人全員が納得できて節税にもなる遺産分割協議ができた時に、「更正の請求」をすることも可能ではあります。

 

「更正の請求」とは、申告によっていったん確定した税額などを変更するように税務署に求める手続きです。申告期限までに分割協議が終わらなかった未分割財産でも、その後になって分割協議が完了すれば、「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」などが適用され、税額が低くなりますので、その税額の差額分の還付を受けることができます。

 

ただし、いったん申告して納税したお金ですから、税務署は厳しくその減額の妥当性を審査することになります。また、こちらにも期限が設けられており、相続税の申告期限であるカ月後から、さらに5年以内に行わなければなりません(平成23年12月2日以後に法定期限が到来する申告について)。

 

「更正の請求」という一手間がかかることを考えれば、相続税の申告と納税は10カ月以内で終わらせておくことが無難ですし、理想的です。しかし、それがそううまくいくケースばかりではないので、相続時に何かと問題が起こることになります。

 

「時価」や「相続税の申告期限」のように、法律の規定によって不動産相続がこじれやすくなっていることは間違いありません。しかし、現行の法律が是か非かというところを論じるのではなく、どういう規定になっていて、そのどこが問題となりうるかを認識しておくことこそが、不動産の相続でもめず、過大に納税しないためには必要になるでしょう。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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