前回は、自分の所有する土地に賃貸用建物を建てる際は、慎重になるべき理由を説明しました。今回は、相続税対策で購入した賃貸不動産を「法人」で所有するリスクについて見ていきます。

法人化直後に相続が発生すると納税資金の捻出が困難に

「賃貸不動産を法人で所有する相続税対策をしたい」とは思うものの、万が一のことを考えると、いまひとつ踏ん切りがつかない方もいるかと思います。

 

しかし、そもそも相続税対策も、相続税という見えざる借金が迫っている危機的状況を打開するためのものですし、実際には天変地異や大災害以外の「万が一」が起こることはほとんど考えられません。基本的に、どのような場合においても相続税を減額し、納税資金を確保して、相続人が安心できるようにする対策だからです。

 

しかし考えられる限りで、あえて「万が一」を挙げてみるとすれば、賃貸不動産を法人化した直後に相続が発生してしまった場合です。

 

賃貸不動産を法人で購入した場合で、その法人の株価を計算するときに、その賃貸不動産の相続税評価額は、むこう3年間は株価評価上で時価評価となりますので下がりません。3年経過して株価評価が下がったら、その時点で株式を相続人に贈与していき、相続税の減額と財産の移転を行います。

 

この「評価が下がらない3年間」のうちに被相続人が亡くなってしまった場合は、法人化による相続税対策は頓挫してしまったことになります。極端な場合、相続財産は同族法人の株式のみで、どのように納税資金を捻出すべきかという問題が生じることも考えられます。

「生命保険加入」と「自社株買い」でリスクを抑える

しかしこのような場合にも対応する方法はあります。急な相続の発生に備えたクッションを用意しておくことです。そのクッションの1つは、生命保険です。

 

法人で不動産を購入した時点で生命保険に加入しておけば、相続発生後に、生命保険の解約返戻金や解約しないまでも契約者貸付金を受け取ることができます。つまり保険会社から現金が法人に入るので、それを退職金などの形で相続人に支払えば、それが相続税の原資となります。

 

もう1つのクッションは、法人で借入して自社株を買い取る方法です。個人の相続財産である株式を法人が買い取り、個人はその売却した代金で相続税を支払うことができます。個人で税金を支払うための借入利息は経費になりませんが、法人であれば借入利息は経費になりますので、個人で行うよりはずっと得になります。

 

そもそも、相続税対策とはこのような事態も含めて検討してから行うことになります。対策にある程度の期間が必要である場合、状況に応じてクッションを用意しておき、あらかじめリスクヘッジするのが当然です。「万が一」と思われる場合にも、ちゃんと打つ手はあるのです。

本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大増税時代に大損しない 相続税対策

大増税時代に大損しない 相続税対策

北村 英寿

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策を成功させるためには、実行に移してからの最終的な「出口戦略」まで考える必要があります。 「出口戦略」とは、相続税対策のために購入した賃貸不動産の最終的な顛末を考えることです。 相続発生後は、基本的にそ…

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