前回は、税理士によって算出額が変わる、とも言われる「土地の評価額」について説明しました。今回は、顧問税理士では対応し切れなかった「相続対策」の相談事例を見ていきます。

「土地の無償返還に関する届出」を知らなかった税理士

私が講師を務めたセミナーが終わって、個別質問に答えていたときのこと。参加者の1人から、こんな質問がありました。

 

「先生、『土地の無償返還に関する届出』は、相続税対策でよく使われますか?」

 

この「土地の無償返還に関する届出」は、相続税対策としてはポピュラーなものです。相続税を扱う方なら知っておかなければ対応できない場面があります。

 

ところが、私に質問してきた方の顧問税理士は、どうやらこの制度の存在を知らなかったというのです。

 

私に質問してきたAさんの事情はこうでした。

 

Aさんの祖母であるBさんは広大な土地を所有していました。Bさんは自身が高齢ということもあり、相続税対策として孫のAさんとともに同族法人を作り、法人名義で自身の土地の上に物件を建てる計画を進めていました。

 

そんな中Aさんは、「土地の無償返還に関する届出」を使うと借地権の認定課税の問題を回避できるらしいことを知りました。

 

「土地の無償返還に関する届出」とは、次のようなものです。

 

相続税対策の1つとして、被相続人の所有する土地の上に同族法人の名義で物件を建てることがあります。

 

通常、土地を借りる人は地主に高額の権利金を支払って土地の賃貸借契約を結びますが、この場合、個人と法人は同族になるので、その権利金を支払いません。しかし税務上そのままというわけにはいきませんので「土地の無償返還に関する届出書」というものを税務署へ提出します。この届出で「将来無償でその土地が返還されることを明らかにする」のです。それによって、個人と法人間で権利金を設定せずに借地取引を行うのです。

 

これにより貸宅地となった個人の土地については、更地としての価額の80%で評価することができます。土地の価額で20%の減額は、かなり高額です。

設計事務所に「相続税」への不安をあおられ・・・

しかし孫のAさんがこれを顧問税理士に相談したところ、「そんな方法は聞いたことがない、無理だろう」と一蹴されてしまったそうです。そのためAさんは、そのときにこの届出を使えないと思い込んでいました。

 

私がAさんからお話を伺ったときは、すでに祖母のBさんは自分の土地の上に法人名義で建物を建てること、そして医療施設として貸し出すことを医療法人と契約してしまっていました。

 

「これからどうすべきかについて知りたい」、そんなふうに思っていた矢先、たまたま目にとまったセミナーへ足を運び、私の説明を聞くに至ったというわけです。

 

「土地の無償返還に関する届出」が自分のケースでも使えたことを知って、Aさんはとても驚いていました。

 

しかし、驚きは私のほうが大きかったかもしれません。この制度を「利用したことがない」ではなく、相続税対策をしている税理士の中で「知らない」税理士がいることにまず耳を疑いました。

 

さらに「誰がこの計画を立てて」、「誰が相続税を試算したのか」を質問すると、建築計画、相続税の試算ともに「設計事務所が単独で行った」というのです。

 

設計事務所は、祖母Bさんに医療施設を建築してもらえれば、設計料が入ります。そのためにBさんに近づき、「このまま何もしなければ相続税が大変なことになる、建物を建てれば相続税対策になる」と説得したのです。この言葉に、祖母Bさんは言いくるめられてしまったようです。

本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大増税時代に大損しない 相続税対策

大増税時代に大損しない 相続税対策

北村 英寿

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策を成功させるためには、実行に移してからの最終的な「出口戦略」まで考える必要があります。 「出口戦略」とは、相続税対策のために購入した賃貸不動産の最終的な顛末を考えることです。 相続発生後は、基本的にそ…

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