(※写真はイメージです/PIXTA)

商品やサービスを一般消費者に向けて提供する「B to C(Business to Consumer)」企業と異なり、法人に向けて事業を行う「B to B(Business to Business)」企業は、マスコミへの営業が有利ではありません。日本経済新聞の記者から「B to B」企業広報に転身した日高広太郎氏の著書『BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)で効果的な戦略を解説します。

私の「広報営業」の具体策② 相手を知り、自分を知ってもらう

第2章の冒頭で「孫氏の兵法」の話をさせていただきました。メディアをよく知り、自分をよく認識することが広報活動を成功に導く第一歩だとお伝えしたと思います。似ていることが、記者との信頼関係構築の際にも言えます。少し違うのは、「相手を知り、自分を知る」のではなく、「相手を知り、自分のことを相手に知ってもらう」というところです。

 

記者とはビジネスだけのつながりでも本来問題はありませんが、持続的に強い信頼関係を築くには、それだけでは足りません。これは広報担当者だけではなく、記者にも営業担当者にも当てはまることでしょう。もちろん広報担当者と記者が過度に親しくなるのは禁物ですが、相手のことを聞き、自分のことも話すことを通じて、互いにわかり合え、より信頼し合えることは多いものです。

 

ただ、インタビューなど仕事の際にそんな話をしている余裕はありません。このため、私の場合はたまに記者と食事に行ったり、お茶を飲んだりすることがあります。こちらからお誘いすることもありますし、記者の方々から誘っていただくこともあります。外で記者に会って、踏み込みすぎない範囲で互いの経歴やどんな考え方をしているのかを話したり、仕事の情報交換をしたりするのは、とても大事なことだと私は考えています。

 

ただ、広報担当者の中には「記者と会っても、何を話したら良いのかわからない」という方がいらっしゃるかもしれません。私の場合は、まず天候の話など他愛のない話をした後で、相手がどんな経歴で今の会社に勤務しているかを尋ねることが多いです。立ち入った質問のようですが、よほどのことがない限り、記者たちはすらすらと答えてくれます。

 

家族のことなどをいきなり質問すると、ややぶしつけな印象になりますが、相手が記者の場合、これまで生きてきた人生についての質問は比較的、答えやすいようです。ただし、万が一、出身大学など相手が答えたくないようであれば、こちらから深く追求しないようにすることも大事だと思います。相手を傷つけたり、不快にさせてしまったりしては元も子もないからです。

 

大学や出身地など相手のことを知れば、自分との共通点も見つかるでしょう。同じ出身であればご当地ネタで盛り上がることもできます。同じ大学の出身であればゼミの話などで、同じ高校の出身であれば習った先生の話などができますよね。もちろん、出身地が同じではなくても、旅行で行ったことがあれば「〇〇市なら行ったことがあります。餃子で有名ですよね」などと話をしやすくなります。相手は自分との共通点を見つけようとしてくれている、と思うだけでも好意を感じ、親しみを持ってくれることが多いのです。

 

一通り相手の経歴を聞き終えたら、自分がどんな経歴かも話しましょう。ここでも、相手がたいがい共通点を見つけてくれます。私の場合は自分と相手が話す割合をだいたい五分五分にするよう努め、相手や状況次第でその割合を少しずつ調整しています。どちらかが過度にしゃべりすぎたり、聞き役にまわりすぎたりすると、どちらにも負担になるためです。

 

自分の話をする際に注意しておきたいのは、「華麗な経歴ではないと話す価値はない」などと思い込まないようにすることです。話すのは華麗な経歴でなくて構いません。仮に自分が第一志望の大学や高校に入れなかったとしても、それ自体がネタになるのです。

 

「志望校に入れなくて大学ではやる気が起きなかった」と言えば、相手は「正直で信頼できる人だな」と感じるでしょう。「志望校に入れなかったけれど、大学では頑張って希望する会社に入れた」と言えば、相手は「ハートが強くて、すごい人だな」と敬意を払ってくれるでしょう。

 

そうした挫折の話が、超エリートコースばかりを歩んだ人のサクセスストーリーよりもずっと興味深いというケースはしょっちゅうあります。歴史上の人物の伝記も、たくさんの失敗のエピソードが出てくるのではないでしょうか。それこそが、彼らの魅力になっている面もあるのです。自分が経験した部活動の話をする場合も「野球部に入っていて、甲子園出場まであと一歩だった」という話も良いですが、「科学部に入っていて、葉っぱの葉脈を取って栞にした」などの話も面白いと私は思います。

 

記者からは「そもそも科学部って何をやっているの?」「写真部で何を撮影していたの?」などの質問がくると思います。記者が自分で経験したことでなければ、かえって面白い人だと思ってもらえるのではないでしょうか。

 

最近の社会では、いろいろな価値観や趣味を認め合えるようになってきていますし、記者も多くの分野に興味を持つようになってきているように思います。私の知っている記者たちは、ほとんどがどんな話題でも面白がって聞いてくれることが多いです。もちろん、読者の皆さんが挙げた話題に、記者側がまったく興味を示さなければ、別の話題に切り替えるようにすれば良いだけです。

 

ほかにも、例えば旅行やスポーツなどの趣味でも良いでしょう。親しくなってからであれば、家族についてなどよりプライベートな話をしても良いかもしれません。嫌われやすいのは、相手の話をほじくり返そうとするが、自分のことは「まあ、私のことはいいじゃないですか」などと言って秘密にするような人です。まずは記者と一定の距離を保ちながら、自分のこともある程度開示することです。

 

互いの経歴の話が終わったら、私の場合は、よく今日のニュースの話をします。記者側も時事問題に常に興味を持っていますから、すぐに話に乗ってくるでしょう。話題は必ずしも経済問題に限りません。社会問題やスポーツなどの話でも大丈夫です。

 

しっかりした記者であれば、必ずニュースに対して何らかの考えを持っています。その人の話をじっくり聞けば、広報担当者にとっても勉強になります。相手の話を聞くだけでなく、自分の考えをしっかり用意しておけば、互いがどんな人間かを知ることができます。また、こうした話は相手の信頼性を測るのにも役立ちます。独自の考えを持っている、感情に流されず論理的に話ができるということであれば、信頼に足る人であると判断できます。

 

ただ、私の場合、支持政党や宗教など一部の話題については自分から話題にしないようにしています。相手と考えが違いすぎると、自分では気づかずに相手を傷つけたり、不快な思いをさせたりしかねないからです。

私の「広報営業」の具体策③趣味が合えば距離はより縮まる

私が聞いた、ある大先輩の記者時代の話です。その記者は米国に駐在していた時に、中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)の理事と時々、釣りに出かけていたそうです。

 

外国人記者がFRBの理事に会うのはなかなか難しく、取材をするのも一苦労です。日本人なのに、そんな人と釣りに行ける関係を作るとは「本当にすごいなあ」と感心した覚えがあります。その先輩記者は、そもそも釣りが趣味ではなかったにもかかわらず、FRBの理事が無類の釣り好きだと知って、自分も釣りを始めたのだと知り、もう一度、感心させられました。

 

企業の広報担当者が趣味などを通じて、記者と信頼関係を築くのは、少なくとも日本人記者がFRBの理事と二人で釣りに行けるほどの関係を作るよりもずっと簡単です。もちろん趣味は釣りや野球、ゴルフなどのスポーツに限りません。音楽や絵画、文学など文化的なものでも良いでしょうし、自動車やキャンプ、ガーデニングなどでも良いでしょう。

 

ただしこれは、あくまでも「相手と趣味が合えば」の話です。趣味の話をするくらいであれば問題ありませんが、まったく興味のない分野の趣味に無理に付き合わせてしまえば、相手は不快感を抱くこともあると思います。相手の興味を探りながら話をするのが大事です。

 

私は時々、新聞社のコンペなどに呼ばれてゴルフをやることがあります。ゴルフの場合は早朝からほぼ1日、一緒にいて会話をしますから、相手がどんな人間かを観察することができ、相手を知るにはうってつけのスポーツです。同伴競技者が良いプレーをした時に「ナイスショット」などの言葉で褒め、一緒に喜んであげられるか、自分が失敗しても、落ち着いて、にこやかにプレーできるか、など判断基準はたくさんあります。私自身も相手から観察されていると思いますので、できる限り誠実な態度でプレーするよう努めています。

 

これらの方法はあくまで事例にすぎません。広報担当者はそれぞれキャラクターが違い、それぞれに長所があると思います。記者と親しくなる方法には、すべての人に共通した正解はありませんので、今回挙げたものをすべてやる必要もありません。ただ記者側も、信頼している広報担当者が出してきた記事ネタと、信頼関係のない広報担当者が出してきた記事ネタでは、安心感が違います。

 

自分なりの信頼関係の強化方法を模索し、それを実践していってください。

 

日高広太郎

広報コンサルティング会社 代表

 

BtoB広報 最強の攻略術

BtoB広報 最強の攻略術

日高 広太郎

すばる舎

日本経済新聞社のエース記者として活躍し、東証一部上場の「BtoB企業」の広報担当役員に転身、年間のメディア掲載数を就任前の80倍以上に増やした広報のプロフェッショナルである著者。現在は独立し、広報コンサルティング会社…

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