相続の権利がない「内縁の妻」がトラブルの元に
現在は相続件数のうちの相当数がトラブルになっているといえますが、実際にどんなトラブルが多いのでしょうか。一般的によく起こりうるケースとしては次のようなものがあります。
ケース① 内縁の妻(事実婚)
神奈川県に住むBさんが亡くなったのは半年ほど前のこと。Bさんと一緒に住んでいたCさんとは事実婚で、いわゆる「内縁の妻」という関係でした。
事実婚はすでに20年近くにもおよぶのですが、もともとBさんには奥さんがいて、その奥さんは20年以上も前に他界しています。Cさんと正式に結婚すればよかったのですが、Bさんと亡くなった奥さんの間には3人の子どもがいて、その頃まだ結婚前だったために、Cさんと入籍することにためらいがあったのです。
その後、子どもが結婚して家庭を持つようになり、すでに問題はなかったのですが、なんとなくそのまま内縁関係を続けてしまったそうです。
相続では、内縁関係の妻には遺産を受け取る権利が認められていないため、Cさんが現在住んでいる自宅も、Bさん名義のもので、Bさんの子どもが相続することになってしまいます。結局、Cさんが住んでいる物件を売却して相続税を支払うことになり、Cさんは遺産をもらうどころか、自分が住んでいた自宅も追われることになってしまいました。
最近では、入籍にこだわらないカップルも多くなってきていますが、そのような状態でパートナーが亡くなると、相手方は遺産を受け取ることができません。こうした法的に相続の権利がない内縁関係の妻に対しては、遺言書を残すのが結果的に相手方を守る有効な方法といえます。
「相続人の妻」が争続の原因となることも
ケース② 遺産を請求するバックに嫁の存在
千葉県に住むFさんは、母親と同居していましたが、その母親が1年ほど前に亡くなりました。四十九日が終わったときに、税理士のすすめもあって、弟2人と遺産相続について話し合いをしました。
母親の遺産は、父親が残してくれた家と土地、そして現金が2000万円ほどありました。Fさんは、土地と家をもらう代わりに、現金は弟2人で分けるという形でどうかと提案しました。家と土地は合わせて3000万円程度の評価で、しかもFさんは長い間寝たきりだった母親の面倒をずっと見てきたこともあり、弟2人は不満もなく納得して帰りました。
ところが、その後1カ月ほど経ってから、弟の1人が「もう少し遺産がほしい」と言い出しました。相続人は子ども3人なんだから、3等分すべきだというのです。
よくよく聞いてみると、弟の嫁が後ろにいてたきつけているようです。弟の嫁は、美容室をやっており、やり手で通っているのですが、店舗を拡大しすぎて、経営があまりうまくいっていないともいわれていました。
兄弟3人で資産を3等分するためには、現在Fさんが住んでいる家を処分して現金にしなくてはならなくなるので、Fさんは困り果てました。とりあえず、家庭裁判所に調停を申し立てることにしましたが、「こんなことなら、お母さんに遺言書を書いておいてもらえばよかった・・・」と後悔しています。
「母は、私が一緒に住んでいたから、この家は私が継ぐという前提で何もかも進めてきたのです。私が、母のわがままに耐えることができたのも、ある意味でそういう前提があったから・・・。弟も、気の強い嫁さんで困っているみたいだけど・・・」
結局、家庭裁判所の調停が始まってから半年以上経ちますが、話し合いでは結論がつきそうもなく、このままでは裁判所の審判を仰ぐしかなさそうです。
こうした事例は、いずれも「遺言書」を残しておけば防ぐことができたトラブルですが、相続が「争続」になってしまうと予想できる人は、やはり遺言書をきちんと残しておくことが重要といえます。例えば、再婚した人、内縁関係が続いている人といった具合に婚姻関係が複雑な人は、遺言書を残しておくべきでしょう。
一方、こうした複雑な事情がなくても「相続トラブル」は起こるものです。これまで実際に取り扱ったケースの中には、子ども同士でもめてしまうケースもありました。この話は次回紹介します。