●FRBは6月1日からQTを開始、前回QTよりも大幅かつ速いペースでの保有資産の減額が可能に。
●QT開始最初の1ヵ月で、保有資産は232億ドル減少したが、減少率は0.3%と慎重なスタートに。
●FRBはこの先、利上げ効果を見極めつつQTでFF金利が急騰しないように減額ペースを調整しよう。
FRBは6月1日からQTを開始、前回QTよりも大幅かつ速いペースでの保有資産の減額が可能に
米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年5月4日、バランスシートの規模を縮小する計画を公表し、6月1日から国債などの保有資産を減らす、いわゆる量的引き締め(QT)を開始しました。計画によると、縮小の上限額は、財務省証券と政府機関債、住宅ローン担保証券(MBS)の合計で、当初は月475億ドル、3ヵ月後には一気に倍増し、月950億ドルとなります。
なお、2017年10月から開始された前回のQTを振り返ると、同年6月に公表されたバランスシート縮小の原則と計画では、上限額が財務省証券と政府機関債、MBSの合計で、当初は月100億ドル、3ヵ月毎に増額され、最終的に月500億ドルでした。このように、今回は前回よりも、かなり大幅かつ速いペースでの保有資産の減額が可能になり、QTのより強い引き締め効果が期待されます。
QT開始最初の1ヵ月で、保有資産は232億ドル減少したが、減少率は0.3%と慎重なスタートに
さて、6月1日のQT開始から1ヵ月以上が経過したため、現時点での進捗状況をみてみます。FRBは、毎週水曜日時点におけるバランスシートの詳細データを公表しており、財務省証券と政府機関債、MBSの残高合計である、「保有有価証券(Securities held outright)」の数字を確認することができます。保有有価証券の残高は、QT開始前の5月25日時点で8兆4,792億ドル、直近の7月6日時点で8兆4,560億ドルでした。
また、バランスシートの総額は、5月25日時点で8兆9,143億ドル、7月6日時点で8兆8,919億ドルでした。つまり、QT開始後、最初の1ヵ月で、保有資産は232億ドル減少し、バランスシートは224億ドル縮小したことになります(図表1)。5月25日を基準とした場合の減少率は、保有資産、バランスシートとも0.3%程度であり、前述の上限額を踏まえると、QTは慎重なスタートとなった模様です。
FRBはこの先、利上げ効果を見極めつつQTでFF金利が急騰しないように減額ペースを調整しよう
参考までに、前回QTの最初の1ヵ月では、保有有価証券の残高が2017年9月27日の4兆2,403億ドルから、11月1日の4兆2,372億ドルへ、31億ドル減少した一方、バランスシートの総額は、その他資産の増加などにより、ほぼ変わりませんでした。9月27日基準の保有資産の減少率は0.1%程度となり、前回と比べると、今回は若干縮小に踏み込みましたが、いずれも慎重にQTを開始したといえます。
QTには強力な引き締め効果があり、前回はフェデラルファンド(FF)金利が一時上限金利を超える場面もみられました(図表2)。
今回のQTは、大幅利上げと同時進行のため、FRBはこの先、利上げ効果を見極めつつ、FF金利が急騰しないよう、減額ペースを調整していくと思われます。そして、FF金利の急騰を回避し、量の絞り込みを着実に実行することができれば、景気のソフトランディング(軟着陸)の余地は広がるとみています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『先月から始まった米の「量的引き締め」の最新動向と今後の展望【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト