■NASH患者に用いられる一般的な治療薬
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<基礎疾患あり>
Ⅱ型糖尿病(インスリン抵抗性)…ピオグリタゾン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬
脂質異常症…スタチン
高血圧症…ARB、ACE阻害薬
<基礎疾患なし>
ビタミンE(NAFLD/NASH治療として保険適用になっていない)
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脂肪肝には保険適用となる薬がないので、ビタミンE(自費)をベースに、その人の生活習慣病の有無に応じて対象となる治療薬(保険適用)を足していくケースが一般的です。一方で糖尿病薬には体重減少が期待できる薬があり、脂質異常症の薬には中性脂肪をコントロールする薬もあります。そうした薬剤を脂肪肝の治療を目的に自費で処方するかどうかは、医師によって判断の分かれるところです。
このほかNASHの発症や進行には、酸化ストレス、インスリン抵抗性(高インスリン血症)、肝臓に蓄積した鉄が関与しているとされており、体の酸化、糖化を防ぐためのサプリメントなどがあります。
脂肪肝の患者に処方される薬としては、ウルソデオキシコール酸(UDCA)(肝機能改善作用。肝臓の血流をよくして肝臓の細胞を守る)、ビタミンEやビタミンC、あるいはポリエンホスファチジルコリン(肝臓を守り、コレステロール値を改善する)等も候補になりますが、このうちNAFLD/NASH診療ガイドライン(日本消化器病学会・日本肝臓病学会)で推奨度Aの薬剤はビタミンEのみ(図表2)。ウルソデオキシコール酸(UDCA)は「推奨せず」となっています。こうした評価の背景には、研究自体がまだ実施されていない、臨床試験の結果がまだ出ていないという理由も含まれます。
抗酸化作用があるビタミンEや、インスリンの効きをよくする作用のある糖尿病の薬などにはNASHに有効であることが示されていますが、長期間にわたって肝硬変への進行や肝がんの発症を防ぐことができるかどうかは、まだはっきりと証明されていません。
医師が用いるガイドラインには、エビデンス(科学的根拠)や推奨度というものがあり、薬剤ごとにそれぞれ評価がされていますので、医師は患者のライフスタイルや体質、持病などを考慮しながら、ガイドラインの情報も参考に薬剤を選んでいきます。脂肪肝の治療は、ある意味オーダーメイドといえます。こうした評価は、エビデンスが加わればアップデートされていくもので、将来的にはもっと有効な治療法が開発される可能性は十分あります。
薬剤は一生飲み続けるというものではなく、生活習慣病や脂肪肝のコントロールができるようになれば、いったん薬剤を止めることもできますし、運動や食事指導だけで経過を診ていく場合もあります。
他にも有効性が期待される薬剤が多数認められます。ウルソデオキシコール酸は、常用量として有用性は認められていないので注意が必要です(日本消化器病学会・日本肝臓学会NAFLD/NASH診療ガイドライン2020)。
■開発中の薬物療法
ウルソデオキシコール酸自体は、ヒト胆汁酸の一つで胆汁酸の分泌促進、肝細胞保護といった薬効があります。現在、日本の薬剤メーカーが開発した「norUDCA」という新薬の臨床試験が米国で始まっています。これは生体内にある成分(ウルソデオキシコール酸)を利用した薬剤であることから、個人的にはこの薬剤に期待しています。また中性脂肪合成抑制「ペマフィブラート」は、日本で脂肪肝に対して臨床試験が行われています。試験中の薬剤の中では、この2つが有望とみています。